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「俺、花といったら桜がすき」 縁側でいつものようにボーッとしていたかと思ったらいきなりそんな言葉をぽっかりと浮かばせた。 目はぼんやりと空を見つめている。綱吉はきょとんと目をまるめて、座敷からのそのそと四つん這いの格好で 縁側にだらりと腰掛けた男へと近付いた。 庭には桜の木など一本もなく、ただただ広葉樹の緑がざわついているだけだ。四季の移り変わりの少ない庭がいいと主はおっしゃっていたのですと、彼の家政婦は呟いていたことをふっと思いだした…。ああ、いい天気だ。そろそろ 花見の季節だとテレビでもいっていたから…、まあ、そういう関係の前触れ的な言葉なのか。 綱吉はちょこんと男の隣に座って膝を抱えた。桜は綱吉も好きだ。 「じーちゃん」 「いーちゃん」 「……う、うん。いーちゃん…」 さらっと風が髪を撫でて爽やかな心地を運んでくる、…にゅっとのびてきた腕がぽんと綱吉の頭をなでてきて、 さらに、ぽんぽん、と手触りを楽しむように鞠でも扱うように弾んだ形で遊んだ。おまえはかわいいねえ。 からかうような声音。 そっとその表情をうかがえば、目を細めて穏やかに笑っていた。男は若い姿だが、…ああ、こういう顔をされたら たくさんの年月を過ごしたのだと納得させられるのだ。綱吉はニコリと無邪気に笑んだ。 さわさわ、さわさわ、風が春の匂いを運んできている。 男の目は穏やかに柔らかくほころび…、遠い昔を懐かしむような少しだけせつない色をしているから綱吉は 優しくわらう。 「いーちゃん」 「んー」 「いーちゃん」 「なあーんでしょーー?」 「んー…、花見いついくの?」 「いつがいいだろーねーーー??」 男の手は甘く優しく綱吉に触れた。こんな触り方ができるのに。綱吉はぼんやりと思う。 男はにっこりと笑った。手は相変わらず綱吉に触れていて…。あたたかいけど。 「お前がいきたい日でいいよー?」 こわしたものの方が多いのだ。 |