主の顔の出来栄えは大層丁寧なものだろう。
なにかの折にそんなことを諦めの溜息と共に霧がこぼしていたのを綱吉は聞いていて、なんとなくそれをずっと覚えていた。
彼の横顔に散る、途方もない無念さが印象深かったからなのか。そのときの綱吉は曖昧な返事をしていたように思う。丁寧な造りだとか、綺麗な顔とかなら、そんなことをいった彼の方が大変綺麗なんじゃあないかなあと強く思ったし。すらりとした長身できちんとした身なりで背筋もピン伸びた姿の彼はまるで本業はもっと華々しいなにかなんじゃあないかと常に思わせてくれる人だったからだ。ほんとうにこんなところでたったひとりの為に家政婦として働くなんて勿体ない!なんでもそつなく素早くこなす万能な彼は知識も豊富で青年実業家だって夢じゃないだろうしモデルになったら絶対最上位に立てる筈だ。 …おかしい、なんておかしな男だろう。自分の顔がこの世で一番綺麗だって思っているくせにあの男こそが至上なのだと仰ぐ。
(……あ。じいちゃんはひとをおかしくさせるのは天下一品なんだっけ?)

その狂人大量生産機は現在綱吉にしがみついて離れなかった。

「ツナぁー、じいちゃんは今糖分がとっても足りてないんだあ〜〜」
「はあ…」
曖昧な返事を返すしかなかった。居間でテレビを見ていたらいきなり背後からガバリと襲いかかられたのだ。 つなーつなーと何度も何度も泣きそうな拗ねた声で綱吉をあまったるく呼び続けていくら綱吉がうひゃあ!とかぎゃあ!とか叫んでもお構いなくちゅうちゅうとキスをして、そして、とうとう最後にはひょいんと綱吉の躯を軽々自分の胡坐をかいた上に収めたのだ。
まるで羽交い絞めだ。しかも綱吉の両腕を自分の首にまきつけさせ、足を広げさせて男の腰を挟む形にさせて堂々と対面で座らせているのだ。俺はコアラか…。木にしがみ付くコアラの姿と今の自分の姿を重ね合わせながら綱吉はどんよりと溜息をひとつ零した。例えこの姿が傍から見ればコアラのようであっても実際はぎゅうぎゅうとしがみついてきているコアラはこの男の方なのだ。すんすん鼻を鳴らしながら綱吉の肩口にすっぽりと顔を埋めた男はさっきからずーっとずーっと綱吉の体温に飢えたようにぴったり躯を合わせて手を綱吉の背中に滑らせて腰や尻まで撫でて来る。
「じ、じいちゃん〜〜」
「いーちゃんだもん…」
つんと拗ねた声と一緒に尻をぎゅっと掴まれた。綱吉は仕方なく、いーちゃんと言い直した。
「糖分足りないなら…、お菓子食べればいいじゃんか」
「やだ。今はらぶで補いたいの!」
「らぶって……」
こいつ…。男が自分の何倍も生きた大人ということも忘れて綱吉はガクリと肩を落として呆れた。言い訳が稚拙すぎるというか…、素直にいえばいいのにというか。それとも今日はそういう趣向なのか。綱吉はゆるゆるとおもたく腕をあげて、ポスンと男の頭の上に掌を落とした。
「じゃあ、どれだけこうしてれば補えるの?」
「………………」
なでなでと真っ白な柔らかな頭をなでながら、綱吉はちいさい子に対するように優しく問いかけた。相手は自分をすっぽりとおさめることが出来る大人だが。男はもっとといってゴロゴロと甘えてくるのだからいいのかもしれない。…いや、世間一般的にはよくないが。
「ツナぁーー、したいいぃーー!」
「はあ?」
「したい!」
「……し、したいって…」
ぐりぐりぐりと肩口に額を押し付けて猫みたいなおねだりの仕方。おっまえ!本当に自分いくつだと…!!綱吉はそう罵倒してやりたかったが言われてる内容が不穏すぎた。したい。肉欲を満たせと。真昼間からか!!つつつ、っと。男の指はいつの間にかいつも男を受け入れさせられるところを悪戯にやんわりと撫でていた。
「や、やだよ!!」
綱吉は顔を真っ赤にしてぐいっと男を引き剥がしにかかったが自分の躯を強制的に男に絡ませられた形だ。がっちりと背中を抱えられて下半身が押さえられているのだ。…む、無理だ。綱吉はドンと冷や汗をかいた。ヤラレル!!男がこうして退路を全部塞いだという形ならば滅多なことでは逃げ出せない。夜にお願いしますといったって、余程の条件をつけなければ叶わない。……例えば、口でするとか。自分からのるとか。いや、これはこの前却下されたか。綱吉はうーんうーんと必死に打開策を巡らせたがまったくいいものが出てこない。
「大丈夫!やさしくするから、ね?ね?」
そういってやさしくするのは精々最初だけだ。我慢できないとかいって無体を何度働かせられたか…。数えるのもいやだ。毎回だ。毎回全部だ!
「つーなぁーー」
ごろごろと猫のように可愛く甘えてくる。すりすりと綱吉の頬に頬を寄せて、気持ちよくするからあ!となんとも甘ったるいお声でお誘い。ちゅ、ちゅ、と頬に額に鼻に目元にキスをふらせ最期に唇を合わせる。はむ、と下唇を食んだり舐めたりぐちゅっと綱吉の口の中に舌をつっこんで口内を愛撫したりと…。エスカレートしていく。ぐいぐいと男の昂ぶりのところに下肢は押し付けられどれだけ自分がしたいのか綱吉の中に突っ込んでぐちゃぐちゃにしたいかを盛んにアピールしてくるし、…そうされるとその擦り付けられたところからぐずぐずに溶かされていきそうになる。綱吉は観念するしかないのかもしれない。所詮はこの男によって丹念にひらかれた躯なのだ。はふ、と熱い吐息を零して目元を真っ赤に染めて、…そっと、自分から了解のキスを送った。
(俺も、おかしくさせられたなあ…)
男の顔は素晴らしく満面の笑みで、確かに大層な出来栄えの顔なんだと思わせられた。
「ツナ、超すき!!」
悪魔というものの顔はきっとこれだ。


2008/04/06