MIND CIRCUS
きっとお前は喜ばないだろうと解りつつも、………けれど、
けれどもそれが此れこそがお前に出来るたったひとつのことなのだから。
「目を瞑ってくれ、すまないが、……そう、今まで通りにだボス」
カラスよりも涼やかな高い声で海鳥が鳴いている。
ザ、と踏み込むと砂に足が埋り、なかなかにこれは歩き難い代物だとこっそりとリボーンは心中で舌打ちした。
ザ、ザ、…っと、熱い砂の感触が靴越しにも染みてきた。
目の前には赤くどろりと蕩けた火の玉があり、
これを玩具みたいに仕立て上げたのが今朝食べた半熟の目玉焼きではないかと
莫迦げた考えが脳裏にひらりと浮かんだ…。まあ、自分ももう10年の齢を生きたのだから、こちらの思考回路の
方が余程にらしいのだろう。
ぐい、と舌で咥内の上顎をなでるとあの時張り付いた黄身の感触が甦ってくる。
だが、それよりも粘質に絡みつくものがリボーンの喉奥には宿っていた。
黄身のように舐め取り飲み下せたらといつだって思う。
だが、リボーンはそんな己の弱さを嫌った。
許せる筈がない、そんな醜態など。自分は鷹の目よりも鋭い眼差しの殺し屋なのだから。
……時々愚かしい、馬鹿馬鹿しい!と弱さにどっぷり浸った部分に自棄にもなるが、
結局、その喉奥のものを毅然とした態度で取り出すことも
飲み下して無かったことにも全く出来ず仕舞い。
あとはただ嫌な予感だけがはっきりとする。
明確な予言だ、正確な未来予想図だ。
銃も、上着も、帽子何もかも命まで放り投げ出したって、それだけはきっとリボーンの喉に残ったままなのだろうと。
「……ツナ、いい加減逃げるなよ」
犯罪者は南に逃げるというが、この弱虫まで南に逃げなくてもいいだろうが。
砂浜はバラバラの波のように荒れてぼこぼこサラサラしていて、そんな中に長い後れ毛の青年がポツンと
膝を抱えている。まるまった背中に張り付いた長い影。彼はそんな薄暗ささえもとても重たそうに見える程に
存在は柔らかでひっそりとしている。短い袖からするりと伸びた両の細腕の
赤くひりついた様などは人の心に憐れさを滲ませるだろう。
東洋人ということで若く見える上に、その東洋人にさえ十代に見られる彼は、見事なまでに
周囲の人間の同情を集めて、その上で無関心という慰めを受けていた存在なのだろう。
相変わらずチヤホヤされるフェロモンを流してやがる、リボーンは低く舌打ちすると、
ドカっと綱吉の隣に腰を下ろした。砂は少し湿っていた。自慢のスーツが砂まみれじゃねえか、そんな
悪態を眦にギリリと込めながら、綱吉を睨みつけた。
「……お前は、いつも俺が逃げたっていうけど、俺はいつだって逃げれた試しなんかないんだよ」
「当たり前だ、誰がてめえを逃がすか」
「うん」
「そうだ」
膝を抱えた腕の中に伏せた顔を、僅かにずらして綱吉はこそっとリボーンの顔を見つめる。案の定、その目は真っ赤に
腫れていたものだから、リボーンはダメツナと溜息をたっぷりおもっくるしく吐いてやった。
ばっかじゃねえの?わざと年相応の口調とやらをしてやれば、ふわっと目尻がやわらかくゆるまった。
「馬鹿だよ。でも、きっと………愚かなんだろうね」
「そうだ」
「惨めだなぁ…」
「まあな」
「それでも俺は命乞いされてしまうと弱いんだ」
「難儀なことだ、………俺達がな」
盛大に。ぐしゃぐしゃっと綱吉の頭をリボーンはてのひらいっぱいに広げて掻き回してやった。
泣き止め泣き止め、可愛い坊や、飴でもやるからな。歌うように囁き、思う様に引っ掻き回す。
問答無用の力加減な為に合間合間に綱吉のイタイ、ヤメロ、ヤメテクダサイ!なんて声が聞こえたが、
そんなものなどまったくスッパリ無視してぼんやり太陽がボチャリと落ちてしまうまでしてやった。
ざまあみろ。
「……その、命乞いしてきて其れ叶えてやったのに歯向かって来たバカを殺してやったのは誰だか言ってみろよダメツナ」
「………………………リボーン」
「そのリボーン様に手間かけさせてんのは?」
「ボンゴレボスの十代目」
「そう、てめえだ」
此処はやはり暑くてかなわんなと、ばさっとスーツの上着を脱ぎ、リボーンは真っ白なシャツの袖を捲り上げた。
そこらに落とされた上着はズシ、というかボタ、と重い鈍器の振り落とされた音がしたが、
まあ当たり前だよなあと綱吉は嘆息して、ずずず、っと、引っ込めた首をのろのろ伸ばし始めた。
目の前はもううっすらと暗い。紫と、雲の合間に橙が、そして黒い影。藍色。
「……お前が助けた命でボンゴレに尽くす者も無関係でいる者もいる。だが、全てが全てお前に
無害なわけじゃあない。それはすでに幾度も経験してるだろうが」
「うん、でも慣れないよ」
「ガキみてえなことを」
「俺が俺でなくなってしまうのは嫌なんだ」
「で、逃げるのかよ」
「いいや。…いいや、そうかもしれない。けれども逃げ切れないこともちゃんと解っていたから、これはただ単に
…、そう、本当に少しだけでもボンゴレと関係ないところに居たかったんだ」
「じゃあもうそんな時間はこれで終いにして、さっさと帰るぞ」
うん。そう綱吉は頷いたが、リボーンも綱吉もただぼんやりと水平線の向こうを覗いていた。
この海の向こうには彼らの住む世界が在りまた故郷もある。綱吉は悲しむような懐かしむ眼差しで
遥か彼方を見つめ、そして、ふっとリボーンの肩にその頭をのせた。リボーン。
ちいさくささやく。名前はこれだけ。
綱吉が最後の時に呼ぶ名もきっとこの死神の名前だけ。
「……てめえはてめえのままで居ていいんだ。俺が殺せばいいだけなんだから」
「………………うん」
「俺がお前にしてやれることなんてこれぽっちだ」
「そっか」
「だからお前は曲がるんじゃねえ。曲がれば俺の何かも狂っちまうんだから……」
わかったよ、そうひっそり呟いて瞼を閉じるとツキンと奥が痛くなった。涙。
もう出し切ったと思っていたのに…。ああ、目裏はまっかだ。
陽がまだ残っている証拠。どこかしこもヒリつき、ただ、この凭れる場所だけが涼やかにあたたかい。
リボーン、リボーン、リボーン………。さっきとは全然ちがう、別人のような少年の手が
綱吉の頭を撫でた。わらっていろ、強気で、いつも、……かなしまないようにといえないが。それでも。
リボーンの声が間近で注がれる、甘い蜜のように寂しい子供の甘いわがままのようにも。
「ツナヨシ。お前が俺のボスだ、そして俺の、……きっと最後まで手離しがたいものだろう」
トン、と。綱吉の頭にリボーンの頭も寄せられる。潮風じゃない匂いが清清しく香る。
「目を瞑ってくれ、…今まで通りに何もかもに、闇に蠢くものにも俺の殺気にもだ」
海辺にはただただ、波の音と飛び交う海鳥の声が響いた。ふたりは明日にはもうこの楽園から出て行く。
寄り添い合う雛のようにしていられるのも、ただ、……楽園ゆえに、夢の終りゆえに。
綱吉はそれが悲しかった、声に出さずにただ隣のぬくもりに縋った。彼が、とても愛しいから。
………それもまた哀しい事実であったが。
(俺には出来るんだ、お前を解放することなど。ただ殺せばいい、お前を引き止める全てを殺せばいい、
………そうしてお前がまったく生きていけなくなることぐらいまで知っている。
けれどもお前は優しいから小賢しい俺に騙されて俺の為に生きてくれるのだろう、
俺の為だけに生きてくれるだろう…。なんて非道い夢物語だ。けれどもなんて腐臭よりも甘ったるい!
俺は其れにとても期待してしまう外道でなんて甘美な物語だろうと恍惚となる。
すまない、考えてしまうんだ、お前との口吻けの終りになど特に)
静かなフライト。毛布の下でひっそりとリボーンと綱吉は手を繋いでいた。綱吉は眠っている。
リボーンは眠れない。これが逃避行であるならば、…引き戻しに来た者の台詞じゃねえなあとリボーンは
己の思考回路に皮肉気にわらった。世界を誰よりも疎んじているが綱吉を誰よりも愛しているのだリボーンは。
「……殺してやるよ」
瞳閉じても未だに鮮やかに瞼の裏に甦るのはあのしたたかな烈しい眼差しの美しさ(其れが胸を抉る。)、
もう何処にも居ない筈の少年が哀しく切羽詰ったように口を開き、…ああ、今でも今でもか、なんて
鮮やかに麗しいことだろうか。リボーンは盛大に喚き散らすように哄笑したい気分になったが、そんな気配を微塵にも出さず、
静かにクッと口許に清廉な弧を描いた。お前の為に出来ることなど此れだけなのだから。
諦めるように開き直るように。繋いだ手に少しだけ、ぎゅっと力を込める。(はなれないでくれ。)
なあ、ダメツナ。今でも血の匂いが駄目なダメツナ。
『リボーン、おれは、それでも……!!』
「殺す…。目を瞑れ今まで通りにだ、ツナヨシ」
(終)
**アトガキ
加々巳アニキからのリク『リボツナ甘甘』。
…………………。あ、あまいじゃんかねぇーー!!?ねえ!!(あまいよーー!!?すっげよー!?
リボ様ったらドロドロの溺愛じゃあないですかぁーー!!?)
所詮はからすまる基準の甘いもんだと思ってください。実は甘甘って苦手だよ!!
『え?中谷さんの曲では全部甘いお話になりますよ?』とかゆうてた想ちまが改めてすごいと思わずにいられないぜぃ☆
とゆうかなんかネタを全部出し切れてないのが悔しいのでいつかリベンジしたいとか思ってたり、
…おもうだけでおわってそうだとおもってみたり(まって)
(2006/06/17)
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