俺の心はいつだってそこの宿りそこに蹲り、俺は迷い子のように泣いてしまうだろう。
おれはいつだってかなしいとはおもわなかった。
なにひとつ傷ついてもいなかった、傷つくことをのぞまれなかったからだ。
優しさこそまったくもって残酷なことだとさえ気付かなかった、それが酷く寂しいことだとも…、そんな、そんなお前が。
とうとう。


(固く目を瞑って祈る、祈る前からもう解りきっていた、けれどもけれども、……固く目を瞑る。)


…………だいじだったよ。







汚れた脚





高校進学は野球の強いところと決めていた。 綱吉はやはりといった山本らしい進路にぷっと笑っていた。 すごいね。やっぱりねさすがだねといった気持ちの織り交ざった言葉には何処か 友を尊敬する声も入り混じっていて思わず山本は気恥ずかしい気持ちとなった。 太陽のように明るい笑顔に照れを浮かばせ、だってさ、と夢を語った。 彼にとって野球はすべてだ。綱吉はそれは本当にとても強く理解していた。 なんたって『野球が出来ない』ということで彼は自殺未遂を起こす程に思いつめたのだから。 (そして綱吉はそれに巻き込まれた。)
とてもよく理解している。


「山本にとって野球はもう命そのものだね」


綱吉はふわりとわらいながらそう零した。午後の教室。ひるやすみ。周りは賑わい 綱吉は次にはそういえば次の授業は…と言っていたが、不思議とその言葉の 落ちた瞬間、ザッと何もかもの音が山本の耳から鋭くパッと削がれていた。 知らずにつぅっと背中を冷たい汗が一筋だけ落ちた。正気だった。 綱吉は普通のとおりだった。山本の耳だけがおかしかったのか、または心か脳か。 やまもとにとって野球は…。この言葉は山本の耳の奥底に丁寧に仕舞い込まれたようで、 ふとした瞬間に耳の中にシンとひびきわたった。





























「ね。俺と山本は友達だよね…?」



彼はいつの間にか小さくてガリガリの身体をしなやかな形にするりと変えていた。 ピンと背を伸ばし百合の花のような笑みをうっすらとあたたかく浮かべる。 高校にはいるといつの間にか背がぐっと伸びて其れがあまりにも急なことだった為に 骨張ってしまった体がふとした時に華奢なイメージが付きまとわせたものだったが、 今ではもうそんな印象ははらはらと剥がれ落ちてしまっている。まるで羽化したよう。 (夏服に透けて見えた肩甲骨が印象的だった、いつの間にか、 その背は貧弱な少年の域を脱しようと必死にもがいているようにも見えた守りたいといっているようだった。) そして背の伸びた綱吉はだんだんと筋肉をつけていき、視線を強く固く清くまっすぐに透明にしながら純粋に笑いながら、 まるで牙をゆっくりと研ぐように…。成長した。心もだと山本はほんの少し寂しくわらう。

「ああ、友達だぜ?これからもずっとずっとな、ツナ」
「うん」

ありがとう。なんの屈託もなくわらった。ニコリニコリ微笑みながら手を差し伸べる。それに山本はギクリとした。 彼が同じ大学にいかないことは知っている。だからこれはそういうことの『別れ』を意味するのだろう。…ああ、ちがうのだ。 山本は目尻に皺を苦しく刻ませた。視線がさざめく。ぶわっと彼の背後で桜吹雪が起こった。

「…ツナ、はさ…。大学行かねーの?」
「うん。行かない…、というかもういけないんだ。俺はもう駄目なんだ。駄目になりそうだから…、それに、 俺はもう昔の自分じゃないから、きっと、何処でだって生きていけるんだろうけど、でももう何処にもいられないなあって 思ってしまったんだ」
「わっかんねーよ、ツナ…」
「そうだね、だから俺たちは友達でいられるよ」
「ツナ…!」
「山本が友達と言ってくれた。その言葉は俺の中で永遠だよ。永遠に俺をおしてくれるよ…。だって、もう、 充分だから。だから俺はもう平気だよ。山本が本当の俺を全部もっててくれるから」

全部、ぜんぶぜんぶ持っていて。にっこりと青天のような爽快な笑顔を浮かべながら両手をふわっと広げて 桜の園の中でなにかを抱き締めようとする。俺をおぼえていてよ。彼はうつくしい旋律で言葉を紡いだ。 つむぐと桜の花弁がはらはらとひどく舞い散って彼の髪に肩に指先にさらりと触れていった。おぼえていて。 山本の姿を通り越して綱吉は遠くの空を眺めてふっと自嘲気味な笑みを口の端に刻んだ。ちいさく、きこえないように、 …うっすらと言葉をこぼしながら。目を閉じて。

「しらないふりをしていてよ。俺といつか擦違ってもしらないふりをしていてよ…。俺の救いはもうそれだけだ」

ばらばらと桜色の雪が振り撒かれる。彼は誠実ささえ此処に置いていくつもりなのだろう。 山本はいつだってこわかった、こわかったのだ…。綱吉の何処に触れればいいのかわからなくて、 どうすれば彼の傍にいれたのだろう。彼ののぞむことはただひとつだったのに。 いつの間にかすっかり猫のような音の無い歩き方をするようになった、かつては泣いてばかりだったちいさな綱吉。

「ちぇ…、お前らとのチャンバラごっこは楽しかったのになぁー…」
「そっかぁ」
「なんかわかんねーけど!!俺たちはずっと友達だからなツナ…ッ!」
「うん!」


































「野球、がんばってね…、これかも」
「ああ、がんばるさ」







たとえこれからお前が振り向く事無く進んでも、きっとその姿を見つけてしまったら立ち止まってしまうだろう。 (彼がもう日本に足を踏み入れることなどないと知りつつもまた自分 の進む道に彼が決して現れないよう細心の注意を払うことをしりつつも祈るように願うのは…。)



(終)































**アトガキ
山ツナ絵茶中に仕上げました(笑)初だ!山ツナ!!こんな山本ニセモノだああーーーー!!!(絶叫!!)
(2006/08/24)