君の笑顔を見る度にツキンと胸に溢れ零れおちた切なさは今では鉤爪のようなジリッとした焦燥のように為ってしまい、 其れ故、あの時の君の言葉が、声が、感傷みたいなくちびるが脳裏に色鮮やかに甦ってくるんだ、うつくしく揺ぎ無い瞳のしたたかさが、つるりときらめき、 …ああ変わらない変わらないのかまるでかわらない、……此れがあの日々の残照の形なのかと 宙ぶらりんな言葉を閉じて振り返ってしまっている。

彼はあいしているといった。









砂の果実










「……俺は、君がおそろしいままでいたかったのだろうね」

カツリ、カツリ、彼はゆうるりと足先を進めて…ふわっと猫のように静かに立ち止まった。
ねえ、君。静かな声はまるで 夜のように青く染まっている。ねえ、君は…。彼はふっと花のようにやわらかな溜息を吐いてそっと 顎をひいた。するりと肩から長い髪が零れ落ちて、仰向けに倒れた獄寺は彼の顔に彼に向けられた視線に 苦笑をすまなさそうに、しかしながら何処か誇ったようにほろりと浮かべた。
彼も花のように微笑む。仕方ないなあといった大空の笑みだ。彼を包み込むための憐れみにも似た、かなしい…。 だが其れを獄寺は寂しいとは思わない。切れた唇も手足の指先まで切り込むギリギリとした痛みも何もかもが 如何でもいい程だ。ふっと唇が温かい吐息を漏らす。さっきからゼエゼエしていたのに今では、ああ…、どこか 遠いのだ。遠い出来事のようで、…眼の前に、かれが、彼がいてくれるから…。ニィっと 獄寺は誇らしさを前面にぐいっと押し出して強く笑った。おおきく、おおきく、とても満足気に カラリとわらう。わらう。わらい。わらう。子どものように無邪気に陽気に、なにもかなしむことなどないように。

「血まみれでも、君はわらうんだね?昔から、本当にそんなところは変わらないね」

どうしてかなあ…、彼はのんびりと言葉を紡いで、…少しだけ考え込むようにくっと口を一瞬だけ引き結んだ。 まるで桜の花の蕾にも似た固い姿の唇だ。 けれども彼のそれはどんな女よりも柔らかそうで真実を紡ぎそうな予感を孕んでいる。 真っ赤に爛れることのない薄い色彩。やさしい。彼は、…ああ、彼は。 桃色に輝くしろい花弁のようなやわらかな色をそっとのせて、 ふんわりと口許をほころばせた。何かを決断したひと刹那後に開かれる唇は何処か更なる 清らかな白さをもってしまっている。 獄寺はじっと食い入るように見つめた。ゾッとするほどに恐ろしい執着が此処にはある。

「俺はね、やはりこんな君を見ても冷静でいられる自分がつらいことだと思考する。 俺は君が恐ろしいままでいたかった…。君はとても強面で本当に俺は弱虫で、……本当に、君ほど 物騒な人間なんかいないと思っていたんだ、…、ねえ、それなのに……」

泣きたいのですか。そういってしまう前に獄寺はひどいなあとわらっていた。 あの頃こそがこのひとの傍に居たいと一番ガツガツしていた時期だ。そういわれてしまうと 幼い激情のままに動いていた自分が何ともみっともなく滑稽だから。 情けない。
仕方ない。

「……貴方がいいんです。貴方はきっと、…間違えませんよ。誤った道を歩んでも、きっと、 貴方は間違うことだけはなさらないでしょう。俺が信じています、俺を頼ってください、 それだけで、もういいのですから…」


矛盾している。


「そう…。君はそうやって俺に求め続けていくんだ。そして俺に縋るんだね…」


だが綱吉はそれに目を閉じていた、もう何年も前から。 彼がいてくれるから自分の安全があるのもまた真実であり彼がこの世界に引き込んだ要因であるのも 事実であり。


「君が間違えたんだ…、どうしようもない俺を愛したことが間違いなんだよ」

あおくあおく、憂鬱よりも暗鬱ないろで綱吉は彼の耳にぽとぽとと涙のような声を零した。 冷静なおもてでやわらかに微笑みながら。さらりと風がすべって綱吉の羽織った黒いコートの 先が獄寺の顔のまえでちらちら踊った。それを、…ようやくの力ではし、と獄寺がよわよわしく つかんだ。綱吉の顔は一ミリも動かない。じぃっと見下ろす琥珀。神秘的。獄寺の額を すっと汗の珠がおちていった。恍惚。


「満足なんです…。貴方の為に俺が、あの日から散々言い続けた言葉が、今になってそれが貴方には充分に 理解されてくれてそうしてこんな使えなくなった俺を捨て去ろうかなんて迷ってしまっている、…ええ、ええ本当に 立派な理想的なボスですから十代目は」


コートの先に恭しく唇を寄せる、獄寺は相変わらず己の現状など知ったことではないカラリとした 温かな笑顔。血塗れだ。身体の何処も彼処も傷だらけでボロ雑巾のようで、けれども綱吉にはみえる、 心だけはちいさく無邪気に真っ白なのだろうと。ふるりと震えて朝露が滑る花弁のような滑らかさと深い潔さ。
綱吉はバサリとコートを脱ぎ捨て獄寺をそれで覆った。





「…………、本当に。俺は君に復讐されてるみたいだよ獄寺くん」















……あの日少年はいいました、盲目的な少年はこういいました、『貴方の為に命だって捨てれます』と 声高に。綱吉はただわらってわらってなかったことにしていたけれど。






(終)































**アトガキ
ツナ獄くさっ!!!(ヒィ!)
そして書いてみて気付いたが(歌のイメージじゃないじゃんかというのには余所見方向なのですけれどー!/爆)、 『……あれ?こいつ骸よりも報われねぇ??』と。 あらまあ。……なんというか、骸はアレだから綱吉的にも無理せず嫌悪感も露わにバシバシできるけれど、 でも獄寺に関してはなんか甘さが出てしまう?なんか建前を前面にしておだやかーに(なんか近所付き合いっぽいな) まるくおさめようとするのさ。だから綱吉は獄寺に吐いてるのは嘘か本当かわからんくなって グルグルなってほしいやあねー。(ぇ)骸エンディングがいちばん最悪なもんだと思ってたが、獄寺エンディングも 相当なもんだな…!!そんで獄寺ってキモイね!でも骸よりキモくないし、お友達割引で綱吉も我慢しちゃうから、 キモさがそんなに飛びぬけてなくても(飛びぬけてると思うけれど、一番は骸氏なので、まあ、そんな感じで評価はちょっとだけ低めなの☆/…………。) ダメージが実は骸よりもすごかった、と、………おやおやまあまあ、あらまあまあ。
(2006/07/06)