あらしのまんなか、ゆうぐれ、そうして、
綱吉の心はいつだってあの時に還る。ずっとずっとそこに居たように、居るみたいに、身体が何処に行こうと向かおうと置かれようとしても心だけはあの刹那の中に戻って安堵するようにまるまって繰り返し鼓動を巻き戻して再生する。 まるで録音機でも耳の中にあるように鮮明に声が鼓膜を震わせる。心が震える。揺れ動き、脳裏から瞼の裏までさああっと透明な光で染め抜いてそうして眼球の上にべったり貼り付いてあの瞬間を再生する。心が巻き戻る。彼の唇がぱくぱくと閃き、とまり、そうして。 「−−−−−−−。」 彼の言葉は永遠だった。永遠に、永遠に、綱吉を許し続けるだろう。 赤く金色に鮮烈に光るこの世界がまるごと永遠だった。何処にも繋がらない永遠。凝固したという意味と紙一重であり続ける永遠。変わらない、変えられない、まったくの事実で記憶でねじきれることがない永遠。 もう二度とない、永遠。並盛の教室。夕暮れの中。14の夏。 二人しか居なかった。寂しく悲しいと思いながらひどく満たされ安堵する。 永遠に、何処にもない世界。 ただ綱吉の中で繰り返し再生され崩れ去りそうな綱吉を立て直していく。 心の真ん中に温かな息吹を吹き込むように綱吉を整然と再生していく。 暁色に似たその日の残り照が鮮麗に黒髪をなめるように焼いた。常ならその黒髪にのるのは黒銀の輝きだったがその時だけはしゃらりと朱金に染まって彼の頬の産毛まで透明に輝やき苛立ちに溢れた眉間の皺を清廉に浮き立たせた。 大嫌いだと叫んでひっぱたいた彼のくれた真心が綱吉の心を守り続ける、彼のたった一言だけが綱吉を救い続けた。 それは誰も知らない。弱って俯いて膝まづいていた綱吉に覚悟をくれた。闇より冷たく薄く光るような覚悟を、よわよわしくそっと手にする、まるで月夜の晩に拾った硝子のように透き通ったものだった。決して強くはないけれど、輝きはある、それを磨いていけばいいと握りしめる。残酷な選択を迫ったのだとひとはいうかもしれない。彼は確かに残虐だったけれど綱吉にとって彼を一言で表すなら頼もしい先輩だと憧憬を込めて紡ぐことになる。 彼の存在が丸ごと疎ましく全て飲み込みたいと複雑な思いも衝動的には確かにあった。 それでも。恋ではなく、友達でもなく、神でもなく。 「………否定し続けていてください、雲雀さん」 綱吉の柔らかく安堵に満ちた声は悲しみに齧られながらも軽快に風にすうっと溶けた。 脳裏の中で揺れるゆりかごのような記憶から彼の言葉だけがくっきり浮かび上がる。唇の動きさえ明瞭に取り出せる。 泣きなよ。 たった一言の許しを永遠に逃げる場所とする。 |