欲しいものを得たときの不幸せさを胸に今日も生きるこの世の地獄の道のり歩むひと。
ねがいごとひとつだけ胸にあかく
彼は欲しいものをすべて手に入れたと誰かがいっていた。 そのときにふと『すべて』とは一体どんなもの名なのかと心の中に問いかけてみれば何故か 依然として瞼の裏にはずっと犯罪者にだって優しい月の光さえ零れないような 闇がべったりとぬりたくられたままぴったりと離れない。なんだそれは。ちいさな、まるい光も滲む姿さえない無明の底。 たったひとりの音のない世界。騙された気分のまま目を開くしかないじゃないか。 すべてってなに? すべてをもつ。まるで其れはこの世の全部を得たという意味に聞こえたのに。 (すべて、って…。だから一体何者の名だというんだい?) すべて。すべて。すべて。 金も銀も財宝や世界の権力を手に入れたわけじゃない。 ただ恐怖する視線と強さを得ているだけだ。ただ絶対の強さを持ちそれを持て余す日々のことをいうというのなら、 其れはなんてかさかさとした面白くない『すべて』だろうか。ああ、すべて、すべて、それが言葉通りの 意味を持つのなら世界はいらない。欲しいものこそ『すべて』欲しい。 …ねえ。 『 こんな気持ちを今の君ならわかるだろう綱吉? 』 「…ヒバリさんはまるで何にも興味のない顔ばかりですね」 「へぇ…、そうなんだ」 そう見えるのかい?マフィアの頂点に立つ君よ。厚いカーテンの隙間から覗く光だけが暗い部屋を照らす。 細くとも立派な夏の日差しを思い出すような灼熱の光を背にした 君は口元だけの淡い笑みを浮かべているのだろう。それぐらいわかるよ。 逆光の中で見えない君の瞳の色も覗けない笑顔も全部。たとえ光が君を無色にしてもよくわかる。 (灼熱の光は熱い。けれども冷たく心に響いた。カツンと靴音。) 「で。僕に何の用かな綱吉」 「依頼です」 「だろうね」 ああ。 ……あの頃の自分は血に濡れたかったなぁと。そんなことをふいにヒバリは思い出す。 血に濡れたい。冷たい色の世界を赤い色で染めてそめぬいて。そうして誰か遊んでくれないかなと思っていた。 遊びたかった。命を玩具にしていたかったのだろうか。(綱吉の手が頬にのびてくる。) 「言っておくけどまたつまらなかったら今度こそ君を噛殺すよ?」 綱吉。 君の顔が見れない。何故だろう…。(君の息遣いさえ聞こえてくるのに。) 『僕はきっと君と遊びたいんだ……』 君がくれるもので生きていたくはないのだ。君こそを手に入れてしまいたい。 ああ、すき。それがいいなぁ。きみがすきだよ。(そっとそっと頬を撫でる君よ。) 「出来るものならどうぞ」 うん、やりたいね。でもね。(すきだといって) 「出来るからやらないようにしてるんだから煽らないで欲しいなぁ」 君の顔を見たら終わりみたいな気がする。 (そして其れは世界の終わりと同じ意味で世界はいらない筈なのに何故かこわかった。) 『 君は其れを本望と願うから尚更こわいよ綱吉 』 |