(またおいで) 帰り際にかけられるその声に、オレは肯く。 あの人は微笑んでいつもあめをくれる。オレの好きなブドウ味。 特別な時に1つづつ、大切に大切に口に入れる。 落ち込んだ時、嬉しかった時、………会いたくてたまらなくなった時。 大切にしてもあめは少しずつ減っていって、やがて1つもなくなってしまう。 麻薬が切れた中毒患者のように、オレは不安でたまらなくなる。 (あいたい)
「いらっしゃい、ランボ」 夜の闇にまぎれて窓から忍び込んだオレを彼は迎え入れてくれた。 窓を5回間隔を空けてゆっくりたたく。それがいつもの合図。 「こんばんは、ボンゴレ10代目」 挨拶をすると彼は少し悲しげな顔をした。 「何度も言ってるのに、あいかわらず『ツナ』って呼んでくれないんだね?」 昔はずっとそう呼んでいたのにと、酷い奴だと言われてしまうとオレも悲しくなってくる。 本当はずっと『ツナ』と呼んでいたかった。でも、それを周りが許さない。いつでも会えていた昔と違い今は闇にまぎれないとこうして二人きりで合うことすらできない。 会うのが難しくなったのはボンゴレの10代目にこの人がなってからだ。 無邪気にも、いつでも会えると思っていた過去の自分。 ボンゴレとボヴィーノ。組織も違えば立場も違う。こんな自分たちが今まで通り会えるはずがないと言うことを、オレは別れのその時まで全く考えたことがなかった。 「でも、あなたは『ボンゴレ』だから……」 今まで通り『ツナ』と呼んだら、きっと何かが壊れてしまう。言葉を詰まらせるオレに、彼は机の中からあめを1つ取り出すと手招きした。 「そんな悲しそうな顔するなよ。俺がいじめてるみたいじゃないか」 あめ玉をオレの手のひらに乗せると彼は頭をなでてくれた。懐かしい感触に胸が詰まる。昔リボーンに無謀な戦いを挑んで泣かされるたびになぐさめてくれた優しい手。この手をずっと感じていたい。 だから、言ってしまいたい一言がある。 「あの……」 「なに?」 微笑に促されて言ってしまおうかと口を開くけど、言葉が出てこない。………言えない。ぎゅっと目をつぶってうなだれる。 「ランボ」 やわらかなため息と共に優しいその人はオレを柔らかく抱きしめた。 「言わなくていいよ」 背中を撫でる手は、抱きとめる胸は、囁く声は、言わなければ決して手に入らないのに。言わなくてもいいと言った人にすがりつく。あぁ、心が真っ二つに裂けるようだ。言いたい自分と言えない自分。 「今はまだ言えないんです」 「言わなくていいよ」 「だけど、好きなんです」 「知ってるよ」 「………好きなんです」 「知ってる」 決してこの人が『俺も』と返してくれないのも知ってる。それでも、その手をオレは必要としているのです。 中毒患者のようにこの人の優しさを求めて、きっともう廃人になるまで求めることをやめられない。 「お願いです。今夜もまたオレに下さい」 貴方のお情けと懐かしい味の甘い麻薬を。 次に会う時までに俺の心が決まりますように。 「貴方に抱いてもらいたいんです」 優しい貴方は口付けをしてオレを快楽の海に連れ去った。 貴方は麻薬のような人。優しくて酷い人。 2005/11/20 |