何故だろうとお前がいう。
例え明確な応えがこの口から零れないのだとしてもお前はすでに全ての解を胸に抱いているというのに如何にしてそれでもなお。
問う。
まるで安堵の吐息を零すように微笑いながら。










禍  印 












なんでだろうね…。そうポツリと呟く。その瞳は遠くを眺めながら揺らぎ心を此処から逃したいように見えた。 けれども彼が決して此処から心の一欠けらさえ逃げさせることはない。 そう見えるのは死神の視線が見せた白昼夢なのだろう。 彼はただ静かに光にとろりと溶けていくような生温い色の白の寝台の上でしっかりちゃんと笑っている。優しく。 自分の命が狙われている事を知る人間にはまるで見えなかった。

「……仕方がねえ。ヒバリは殺人狂いだからな」
「そっか」

殺人狂い。確かにそうなのだろう。だが現在あの男がこの青年を殺したいのは常と同じ理由からではないのは明らかだった。 何故なら彼はひどくこの青年を愛している。例え海に落とされた小さな貝殻のようであっても 必ず見つけ出す程に、決して青年を見逃そうとはしない。切ないまでに。 そうして大事に大事に誰からも隠してひっそりと守り抜きたい程に本当に。あいしている。
だからこそ今。黄泉路へとたった独りで歩み始めた彼を殺そうとするのだ。
強すぎる程の執着執念独占欲ゆえに。また苦しむことをさせないようにという強く曲がった慈愛の心で。
築かれるゴルゴダの丘。彼を殺すのを良しとしない者達の結束の顕れ。 青年はただただ静かに息を細くしていく。日々。死神は彼の傍を離れない。

「なんだろうな。リボーンは長く付き合ってるせいか道連れを頼めそうだね」
「そうかよ」
「うん」
「………お前は、ビアンキやシャマルと比べたらそんなに長い仲じゃないが、それでも長く居たと思う。 お前は、そうだな。『ずっと一緒』だったから」
「うん」
「だからだ。気安いのは」
「そうだね、もうリボーンは空気みたいだね」
「ああ」
「じゃあ、『お願い』だ」

「…………、」

何故、こいつの思考が読めてしまうのだろう。厄介なことだ。断ることも出来る。けれども 断れば誰が叶えるというのだろう。この幻想を。この世界を守ることを。


「…俺は、あいつらがずっと戦ってればと思うよ。戦う意味があればいいと。それは、お前がまだ生きているという 何よりもの証拠だ」
「うん」
「……いいんだな」
「うん」

お前になにかいってあげればよかった。あの時もあの時も。そうすればお前はもっと楽に生きただろう。
すまなかった。ただ唇だけで囁いた。それをお前は目を見張り、泣きそうな顔でそれでもしたたかに笑顔を浮かべた。

「墓なんかいらない。ただリボーンさえ知っていればいいよ」

「ああ…」


なまえ。
一度も呼んでやれなかった。


「…………覚えておけ。空気がなけりゃ息は出来ねえんだからな?」



おまえがいなけりゃ、きっと、この世はもっと、ひろかったのだろう……。








「なあ…、ダメツナ?」




(終)











 アトガキ
こっちに収納せんでもなあとか思いつつも。GO!!別人28号リボ☆(……)
2005/10/17