飢えるということが初めて覚えた欲望だ。









執 愛












ただの気まぐれだった。以前の前世でうっかり子供を身籠ってしまったから(すぐ殺したけれど)、 子供とはと考えてしまうようになっていた。これぐらい育てば、まあまあ手間もそうかかるまい。 我ながら如何いう気まぐれ加減だろうと思ったが、今はこれといって忙しく事を為そうという気分でも なかった、だから忠実な手駒を今の内に育ててみたっていいじゃないかと思ったのだ。

『…君、飢えているというのなら僕が満たしてあげよう』

幼く汚らしい屍体だ。だが、実は生きているのだと骸には解った。確かにやがて為るのだろうが、 弱弱しい中のこの生への激しい執着が目にとまったのだ。此れぐらいの生き汚さの方がよくもつだろう。 骸はそっと子供の横に膝をつき、じぃっとその顔を眺めて、はっきりと先程と同じ言葉を囁いてやる。 生きたいのなら、動きなさい。ニコリと微笑みながら子供を見下ろした。 まず、本当に生きたいのか生き抜く気力がもっと残ってるのかどうか知らなければならない。

カサリ。紙が地面に滑ったような音をたてて、子供の顔が僅かに動いた。干からびた唇から、ひくひくと 小さな舌がのぞく。声はもうたてられないのだろう。骸は優しく微笑みながら小さな唇をそっと舐めてやった。

『良い子だ。君はとても醜いけれども、その強さは美しいものですよ?覚えておくといい』

子供の目は何も映していなかった、けれどもキロリと目玉が動き、骸の姿に懸命に縋ろうとする。 見えなかった。けれども、けれども子供は。クスクスと微笑む骸を見つめようと矢のように鋭く必死に追い求めていた。


























『俺がメスで、カマキリだったら、貴方を産み直してあげられたのに。』







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H18.2.7