ひどく緩慢な地獄への道のりのように言葉を紡ぐとしたら、それは。









溺 愛












骸という人物は存在するだけで何か心を圧してくるのだ。 色違いの瞳の、右目の生々しい赤がいけないのか其れとも左の何かが凝り固まったような澄んだ深い青が いけないのか…。本人は消極を極めた湖面のように凛としているというのに…。だが彼を中心に 何かが鳴り響き揺れ動いていく。綱吉はぼんやりと飢えたような獣のような獰猛な存在感と奇妙な気配の波を ゆらゆらやり過ごしながら思うのだ、当初は怖いと思っていた此の人が、この人はそんなに怖い人間なのだろうかと。 恐ろしい性格ではあるとは解っている、けれども。けれども?何かが頭の琴線にすすっと触れてくる。 赤い目が、いたかった。青い目が、ふしぎだった。 女のように柔らかく微笑み、氷よりもなお冷たそうな頬で、滑らか過ぎて生まれたてのようだ。 ああ、涙みたいな塩っからいものなんか通ったことないのかもしれない。だから綺麗なのかな其の肌とか。
怖い人間だ、そう本当に思うのに、けれども何かが頷かない。自分の内のなにかが。強硬に。

「殺せばいいのですよ、だって貴方は勝者なのですから…」

地に伏してさえ、美しく。惨めさが微塵とも匂わぬ姿は孤高の王者を思わせる。 …こうしていても倣岸な、彼は彼らしく。綱吉はふっと瞳を揺れさせた。ああ、この人は解っていないのだなと。

「殺してあげてもいい…、けれどももう少し生きてから死んでください。後悔してから死んでください」
「ボンゴレの狗になれと…?」
「そう」

わかっていないのです。綱吉はほろりと苦笑をこぼした。躯がキシキシと痛んだが、どうしてこうも身も命も削りながらこの人を 打ち倒してしまいたかったのか、本当に理解してしまった気がする。仲間の為、腹立ちの為苛つきの為、色々なものの 為に背を伸ばして向かったが、もうひとつだけ如何しても外せない理由もあったのだ。 だって、このひと人間じゃあないみたいじゃないか。







「俺は貴方を愛してあげられないけれど、独りにはしないよ…」














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H18.2.18