………きみをいとおしんであげるよ。









六道の果てを見つめる瞳












「俺は、たったいま理解したよ…」

はたはたと彼の羽織った黒いロングコートが風に飛ばされゆらめく、バサリ、バサリ、 まるで漆黒の翼をその背から拡げているかのよう、彼はまっしろなふわりとした笑顔で、 まるでまるで……、とびたつ準備。骸を鳥のような目で見下ろした。 純粋な色。

「これは…」

これはね。彼は愛おしげに右目を左手で覆った。まっしろなはだ。ぽつりと零された寒椿のような紅。 はらりと左手がはがれると其処には真紅の右目があった。綱吉は骸の右目を喰らった。衝動的だった。 骸の目を覗き込んでいたら耳元で声がした。カサカサカサと蟲が這いずる廻るような音がいくつも重なりあって 出来たような声が綱吉に囁いた。それは、それは、それは、それは…。幾度も幾度もたくさん、ぎゅっと、 耳の中に詰め込まれた。刹那の出来事だった。綱吉はたださっと戸棚の奥から物を取り出すように抉り出していた。 声のままにずるりと抜き出して口の中へバクリ、歯で真っ赤な糸をぶつり、骸から完全に奪った。否。『奪い返した』のだ。真っ赤な瞳はころりと綱吉の胃の腑へと転がり落ちてそこからじわっと滲み出す。 歓喜の歌声よ届け、わたしはもどりました、もどったのです…!さけぶ眼球と運命。ふるえる身体。

「これは俺のものだったんだね…?そうか、そうか、おかえり……」

逢いたかったんだね、そんなにもそんなにもね?クスクス微笑いながら綱吉は自分の右目を自ら抉っていた。だが、すぐににゅっと 新たな眼球が生えてきていた。ぶしゅ、ぷすっ、鮮血の流れも上手く抑えてくれるのか、やがて小さな飛沫を最後に出血は 治まりをみせる。そんな間も綱吉は始終ニコニコと笑顔で、同じく目の抉れた骸とは違い堂々と立ち尽くしているのだから戦慄する。 骸は一体何が起こったのかわからぬ心情で激痛に呻いた。右目を抉ることはなかったがそれに近しいことは出来た彼だ、 こんな苦痛には慣れている筈だというのに、まるで初めての衝撃のように苦痛に呻いた。つなよしくん! 喰いしばった歯の隙間からゼエゼエと取り出された声は弱弱しく泣きそうな声にも聞こえてくる。 まるでわからない、かれが、どうして…?裏切られた気分だから更に嘆きは深く。うずくまる。

「骸、きみは忘れてしまったんだね?君が俺を憐れと思って此れを俺から奪ったことを」

あいしていると、きみはいったんだ…。
綱吉はやさしくささやいた。おれも、そんな風に甘く囁き返すことはなかったが。綱吉の中に その時への彼への何らかの慕情はあるのだろう。すっと膝をつくとうずくまる彼の背を懐かしむように撫でた。

「これがないと俺は困ってしまうんだよ?これがないと俺は忘れてしまう。これがないと目的がなくなる。 これがないと神様の家畜なってしまうんだ。君にちゃんと話したじゃないか?」

ねえ、なんでなんだろうねえ?とても不思議そうな声で問いかける。血も汗もだくだくと流れる苦悶の表情の 青年をシンとした瞳で見つめながら、ふいにポツンと死にそうなのかなとか思いながら、死なないだろうと 思い返しながら。トン、と彼の背を叩くとさっと立ち上がった。

「俺の名前は六道といいます。君が『六道骸』と名乗るのは俺に対しての祝福かなにかのつもりなのだろうけど、 でも俺にとってそんなの祝福じゃないよ。…おぼえていて。俺は君の本当の名前を忘れてしまったけれど、 君が必死で愛してくれたことや俺にしてくれたことは全て忘れないから」

さわだつなよしという名前をあげるから。

はたはたと黒い翼のようにコートが舞い上がる。漆黒の中の優美な微笑。まっしろな。雪のように。
つめたくもうつくしい微笑みをあたたかな眼差しの顔にのせて彼は骸に手を振る。かろやかに。

「また来世で出会ったときは上手に君を守ってあげるから、どうかどうかどうか…、もう俺の宿命に嘆かないでくれ優しい子よ、」











さようなら。





(終)











 アトガキ
こんな六道ツナなんて他じゃ見れないと思うんだ……!!!!(そうかい)
2006/10/27