This is Love












憎憎しいひとですね、骸はぽつりとこぼした。にくい…、そう言いながら次に唇はにくめたらとひっそり紡いだ。

「あなたは僕に何かの情け持っておいでなのでしょうが、 けれどもそうして眉ひとつ顰めずに静かな湖面のような清く冷たい瞳を見ていると 僕は例えようもなく貴方が憎くなりますよ。 そんなに僕はちっぽけですか? そんなちっぽけなものでも貴方は放っておけないというのですか? …あなたの優しさは残酷だ。傲慢ですよ。僕をどうしたいのですか、どうしたいと…、 本当のことを知っていても貴方は…、あなたは…!!!」

目をカッと見開き腹の底から声を張り上げるように骸は激しく綱吉を詰った。 吠えるようだ。先程の冷淡さ滲んだ表情などごっそりと拭われそこには鮮烈なる飢えた憎悪に満ち満ちた瞳。 ぶるぶると屈辱に震えた肩、ぎゅっと握り込まれた拳…、ギラギラと苛烈なる輝きでもって綱吉を睨みつける。

「そうだね…」

綱吉は骸の姿すべてを見つめながりほろりと苦笑を目元だけに浮かべた。 口許はすっきりとした形。きれいな声で、きれいな旋律のように言葉をこぼす。 ふっと閉じた瞳。ひらいた時にはもうあるひとつの決意がゆらりと前面に押し出されていた。そうだね。確認の言葉。

「お前を愛している。 けれども俺はお前を一番に愛せないんだ…、俺はいつだってお前以上の大事なものを抱え込んでしまっているから」

もう一度いうよ。綱吉は冷たく愛しげな瞳でゆっくりと骸を見つめながら、 そっと手を伸ばした。びくりと骸はちいさく悲鳴を零し…、けれども後退さることもなく、 うすっぺらな彼のてのひらをその頬で従順に受け止めた。お前を愛しているよ。綱吉の紡ぐ言葉は毒だ。 はらりと涙がこぼれ落ちた。
熱く、熱く…、ぐるぐると頭の中も胸の中も熱く熱く膿んでバラバラに渦巻いて何も考えられなくなる。 のろいだ…。ぱたぱたとおちていく。涙。綱吉は決して拭わない。
憎たらしい。
愛してる…。
そのふたつがギシギシとせめぎあい…、だが憎悪も愛ゆえだ。 愛ゆえに憎み、憎みながら愛をとうとうと語っている。矛盾なんてものじゃない。 すべて綱吉への愛のことば。憎悪の言葉さえ、彼の愛に満ち満ちて…。

「……あ、…あいしています…、」

カラカラに干乾びた声が紡ぐは熱く濡れた狂気の感情か最早…。 涙に濡れた顔で醜く歪んだ顔でわらいながら骸は綱吉に両手をのばして縋りついた。 愛していますあいしてします、あいしていますから…! 壊れたレコーダーのようにカラカラと言葉は何遍とまわりまわりこぼれおちていく。
綱吉の両手が背を覆った。胸が憎悪ではち切れそうだ。このひとが自分を愛したからこそいけない。 目を見開きさらに涙はだくだくと溢れ零れ落ちた。彼の愛がいけない。ほんの少しだったから、 …けれども彼にとってそんな愛こそ稀なのだろう。

「失う覚悟ばかりなのに…、どうして俺はお前を戻してしまうんだろうな?」






(終)











 アトガキ
某所においたコバナシ〜。
2006/11/12(初出::2006/10/22)