(綺麗なひとには憧れるんだ…)
姿が綺麗というのはすごいなと思う。素直に憧れてしまいながら綱吉はいつだって見惚れてしまう。 綺麗な…。きれいなものは好きだ。かるく普通に思う。綺麗な…。うつくしいものがこの世にあるというのなら。 ふっと目を閉じた。 何故だろう。きれいなものが好きだ。生きる理由はそれがいいと、ちいさく脳裏でチリリと声がした。
「君をどうしたら誰にも見せないでいられるのだろう」 ひどく傷ついた目が眼の前に、まっしろに塗り潰された世界の中に鮮やかにぼうと浮き上がる。 傷ついた目。傷のついた目玉。赤い目が真摯な色で問いかけてくる。どうすればと、そんなこと綱吉に わかるわけがないというのに…、不思議とわらいたくなった。どうして俺にきくのだろう。そんなことを きいてしまっては綱吉はきっと逃げ出すに決まっているというのに。頭が弱いなあ。お前はなんて肝心なところで なんて甘い夢を見るようなことをするのだろう。声もなく、吐息だけでわらってやる。涙さえにじんでくる…。 世界は誰のものでもない。関わることが世界だ。お前はどうしてそうなのだろう。 「殺したら腐る。生かしたら老いる。閉じ込めたら死ぬ。……どうしたらいいのだろうか」 くだらない。 唾でも吐いてやりたい。死ねばいいのにこいつと心の底から願った。内臓から腐っていけばいい。 どうしてお前は俺を手放せないのだ。綱吉は憐れを通り越して憎悪を抱きたくなる。いいや、もう憎悪しているの かもしれない。この男はまったく阿呆でいけない。愚か過ぎていけない。惨め。……きれいすぎる。目を閉じる。 「誰も殺せない君をどうしたらいいのでしょう、僕は君の命が他のものと同列と思えない。閉じ込めてもいいですか? 誰も傷つけないようにしてもいいですか、誰にも見せないようにしてもいいでしょう」 しなないで。しなないでください。ほとほとと白い世界に綺麗な旋律が夢のように鳴り響く。ぬるりと頬を 生温いもの触れてくる。この男の手はいつも血塗れだ。気味が悪いが自分の手も同じだろうから…。 けれども綱吉は再び目を開く気になどなれはしなかった。血はきらいだ。きらいなんだ…。 (俺はドン・ボンゴレ…) 誇りは命より重いだろうか。命より重いものなんてないと思った。 けれども守りたいものの前ではどうなのだろうかと考える。 薄っぺらい命はいけない。投げやりなんてダメだ。だって守りたいものはとても大事なものなのだから。 それに見合う命で守らないといけない汚れてしまう…。大事なものはとても大事過ぎて…。いっそ奇跡のような。 『……俺はお前をまもれないよ』 ふたたび目を開けばまっしろな世界が本当にまっしろいものか分からなかった。鮮やかなものはなにもない。 ぼんやりと乳白色の中がざりざりと暗くにごっていく。きれいなものを。頭の中にチカリと光る言葉。 (本当は誰かを想う気持ちは身勝手で醜いものなのだと知ってるよ俺はもう) かなしい。さびしい。幸福を与えることはできない。 命ひとつあげて喜ぶなら…、悲しまれることしかないと解ってしまっているけれども知らない振りで狡く、 命ひとつでお願いだと必死に許しを請う。 誰かを幸せにしたかった、たったひとりだけでいい笑顔が、……それで、人生に美しいものひとつできた筈。 「さあ、とどめをさすといい六道骸。俺の命を支配する喜びに酔えばいい……、だからおれをさいごにおまえ、」 ああ、骸の顔が醜くなったのは自分のせいじゃあないかとこんなときに綱吉は気付いた。 なくなよ。 (終) アトガキ なにかこうとしてたかさっぱりです。(というかこんな書き出しだけのものがあったことに驚いた!笑) でもまあなんとかオチついた??(かな!!!!) 2006/12/25 |