※紅野⇒ツナヨピ ・ 慊人さん⇒ヒバリさん



















鳥 籠












きみが僕を駄目にする。
ちいさな無垢な眼差しはいつだってさみしがりそうして手をのばせばそんなことを訴えた。
疑心暗鬼。激しい飢えと頑なな拒絶。固く握られたちいさな手。ふるえていた…。きれいな眼差しはいつだって泣きだしそうに歪み。
………はなれないよ。
手をはなすつもりはいつだってなかった。はなすだなんてそんな。きみが大事だよ。まもるから。 きみだけが永遠に変わることなく。永遠に永遠に。永遠の花。ずっと…。
そばにいる。
きみだけが…。


たとえきみが。







(月も無いまっくら闇の中で白く銀色の雨粒が激しく幾億の針のように容赦なく天から突き刺さってくる。)



「おまえが、…ッ!!お、おまえ、おまえが、…そう君こそが…ッ!!」

カッと見開かれた漆黒の双眸は赤く燃え上った色でギリギリと射殺さんばかりに綱吉を見上げた。 まっしろな首筋も憤怒ですうっと赤みを帯びている。 ギリリと握られた拳がドンっと激しく一切の加減なく胸を叩いてきた。 その度に細い黒髪がバサリと舞い、毛先からちいさく雨粒が飛び散っていく。濡れた髪は艶やかで、それは 美しい光景なのだろう。綱吉の髪もぬれそぼり、ぽたぽたと垂れた水滴は衝撃の度に同じく一斉に飛び散った。
あの孤高と深い闇の病みと暗く澱んだ中でもなにかを頑なに信じて縋っていた哀しくおさない眼差しが ざっと剥ぎ取られ、ただその漆黒はどろどろと憎悪を剥き出しにするそれへと変貌を遂げていた。
本当に、ひどく醜く人間臭く、また…。綱吉はくるしく目元を。荒れ狂う雲雀の細い体に手をのばした。

はなれないよ。(…さびしいとすがったひと。)

「どうしてあの時に僕を突き放してくれなかったんだ……ッ!!!」

ドン!と一番の衝撃が胸を襲った。それでも綱吉はぎゅっと雲雀の体を胸の中に抱え込んだ。
後ろ頭に片手をまわし、ぐっと寄せて彼の額を自分の肩にすりつけさせる。罵倒する言葉は続く。 ドンドンと叩く力も増し更に激しく連打する。打ち所によって綱吉は時折咳き込んだ。それでも、 それでもきいてほしかった。あたたかさを分け与えたかった。 雲雀の怒りは絶望により頂点を突き抜けて、混乱した彼にはもはや聞く耳など在りはしないだろう。 それでも。それでも…。今でなければ為らないから。今言わなければ。

『鳥はいいね、羽があって…』

……これはもう、なんだろう。愛なのだろうか。ふっと幼き日の思い出があの子の瞳が綱吉を見上げる 責めるように。
雨の去った空は未だ厚い雲に覆われ月が見えない。綱吉は歪みそうになる目を閉じ、いうべき言葉を心の中から 丹念に探った。まちがっていただろう。そう知った。知ってしまった。 間違いは正さねば、堕ちていくばかりしかないのだから、今こそに。

「やり直そう、雲雀さん。変わろう…、このままじゃあ、駄目だってことは」
「だからなんだ!!今のこの状況でもってもそんなことを言うのか綱吉!!」

拳は鳩尾に食い込まれた。ガハッと苦悶を漏らすと綱吉の拘束は緩みそこから雲雀は離れた。 続けて拳を頬に飛ばす。ガキ、と骨の軋んだ音と共に綱吉はよろめいた、しかし踏みとどまる。
雲雀は興奮の為か肩で息をし、ぐつぐつと煮え立った地獄の釜のような真っ赤な憎悪の瞳で 相変わらず綱吉を睨みすえた。

愛。
愛、だったのだろうか。

はなれないと誓った、それは…、はたして? 綱吉は愛だと信じていた。疑ってもいない。…けれど、違うのだろうと苦しみの中で知った。激痛の中で嫌悪した。 それは憐れみに近かった…。同情を、していたよ。さみしいのはいやだと貴方はいつだって告げていた。綱吉は。

「……おれが、…だめに、しました…」

雲雀の不幸を慈しんでいた。

『大丈夫ですよ、俺はずっと傍にいますから』

きれいだったから。おそろしいまでに純粋で。孤高で。おさなかった。
一目見たときからずっとわかっていたことだった…。この人は。
磨かれるべきひとなのだと。


「俺が、貴方を駄目にした…。だから、俺は貴方を切り離すことを選ぶしかないんです」







(終)











 アトガキ
1月くらいからほっぽいてたことが判明しました。(だからどうした)
2007/05/27