からっぽでいきるから人形みたいねと思ったわ。











愛はどこでうまれるのか知らないけれど












「ボスが望むのならば、私は命だってあげるのに」

風邪でまいって寝込んでいる病人はその言葉に微妙な複雑な何ともいえない顔を少女に晒した。
彼はそういった告白をよく男女問わずに投げられるのでやはりこんなセリフも慣れたように あしらわれるだろうと思われたが、しかしその顔を見るとどうやらまだまだ一向に慣れることなど出来ていない ということで…。一瞬だけきょとんとした 少女は、それからおかしそうにくすくすと微笑った。

「あげるから」

ね、と。可愛く首を傾げながら少女は嬉しそうに言葉を更に重ねる。だが対して青年は渋面を顔いっぱいに広げて 不機嫌そうに眉を寄せた。それにも少女はおかしそうにまた笑って、つんと指先で彼の頬をつつきながら 不思議な顔ねボスと無邪気に紡いだ。
彼は常に穏やかで柔らかな空気を纏い滅多に激昂などしない優しい青年で、 でも今は全然別の人のように目に映っているというのにやっぱり同一人物なのだと髑髏は深く頷いてしまっていたから。

(…そう、このひとはね)

髑髏の胸がツキンと痛んだ。…ああ、やっぱり好き。そんな言葉が胸から次から次へと溢れ出てきて苦しくて苦しくて、 けれども一方ではひどく安堵もする自分がいるのだから。…なんて矛盾。髑髏はそっと服の上から自分の胸をおさえ、乱れそうになる息を飲み込んだ。 まるで冷たく清らかな水が体の端から端までを甘く巡ってしびれさせる錯覚。(彼の瞳が髑髏の中に暴れ込んでくる。) ひどく、泣きたくて切ない甘い心地がいつだって髑髏にたくさんの不安を運んできて足元をぐらつかせる、けれども 彼の傍はとても居心地が良すぎて離れ難くて絶対にはなれたくなくて…、何を引き換えにしてもいいとさえ感情は昇りつめ 張り詰めていった。
自分は狂っているのだ。髑髏は穏やかに微笑みながら想い、からっぽの腹をなでた。

(わたし、うれしいわ)

ぱかりと口を開け、はっきりと一語一語を、きっちりとした形で、ゆっくりと。ゆっくりとつよく。
奏でる綱吉の顔を髑髏は期待を込めてじっと見据えた。


『 い ら な い か ら 』

熱にやられて声が出なかった。眼差しがきつく髑髏を刺した。鋭く真剣な眼差し。 いつもの薄くぼんやりとした瞳の色が厳しく煌いて収斂されている、あかく琥珀色に輝いている。…きれい。 きれいでこわかった。けれども髑髏は怯むことなく殊更に嬉しそうに微笑み、白く細い指先を 青年の熱い肌に頬にすべらせた。
さらりと、傾いでいく体と共に黒絹のような髪が彼女の頬で細く揺れた。白く柔らかな頬の線さえ艶めき、 聖女のようにも娼婦のようにも微笑んだ満足そうな彼女のみずみずしい唇がその熱でかさついた唇にそっと寄せられていく。 …そして、口吻けを贈る距離でもって開かれた唇からはやさしく歌うように告白がもう一度紡がれていった。

「あげる。絶対にあげるの。ボスが望まないなら尚更あげる。ボスが私によって生かされるの。 ボスなんて嫌い。愛してる。嫌いだから嫌いになっちゃ駄目。愛してくれないなら嫌いになっちゃ駄目。 私の命つかって、私のこと一生覚えてて、離れたらもう二度と逢えないの知ってるでしょう?」

ねえ、おねがい。
ニコリと無邪気に微笑んだ、その後にパチリと髑髏は瞼を閉じた。
答えなど解りきっている。彼は殴るだろう。 やさしく憐れむ軽蔑の眼差しでもって。




「だいすきよ、ボス」



目の端に涙が滲むほどに幸せ。髑髏はぽすんと綱吉の胸の中に頭を落とした。彼が好き。ボスが好き。 とてもとても、ふかく、ふかくふかく、愛している。




(……ありがとう、ボスだけね、私に命があるっていってくれるのは)




(終)











 アトガキ
五月三日に某所に書き殴ったものを加筆しましたー。
2007/05/27