喜 劇







ぐるりと、ゆるやかな動きと飢えた温かさで彼の両腕は骸の首をまわった。ぴたりと重なる体温。 骸の額は綱吉の鎖骨あたりにくっつき鼻腔にひなたの匂いがしみ込む。 与えられる…、それはくるしみなのか温かい色の中にさっと滲み込んでいる濁った感情は一体。いったい…。 骸は目をとじて感傷に浸った。首にまわった腕。細いけれども決してか弱くはなく、奇妙な強さが きちんと存在した彼の腕はその温かさによって饒舌だ。うったえている。手が、そっと後ろ頭を撫でる。 髪をぐしゃぐしゃにされた。綱吉くん。骸は咎める声でもなくちいさく平淡な声でもって彼の名前を呼んだ、 するとピタリと手はとまり、項垂れるようにふっと背中の方へとおちていった。
在りもしないものを追い求めているのかもしれないとコソリと想う。
夜のように静かな闇の中にひっそりと埋ってしまおうよと嬉し気にはしゃぐ声がする。 骸は目を開けなかった。うすい瞼に皺が寄る。苦悩を込めて彼はぴったりと目を閉じてすぐ鼻先で薫る温かさに 没頭した。没頭しなければと。繰り返し繰り返し己に言い聞かせて額をくっつけたまま顔を俯かせた。
でなければ顔を覆って絶叫してしまうだろう。
まるまった背中の上で背骨にそってなぞる指先のなんと幼いこと…!

ああ…、と。骸は頭の中で何百回と綴った言葉をまた胸中で繰り返した。
残酷なのか。
ひどく残酷なのでしょう君は。

(しぬ、くせ…、に?)

よろよろと両手は勝手に細い背中へと這わされる。瞬間、ビクリとその身体は震えたがしかし かまうものかと骸は強く引き寄せて同時にくっと歯を食いしばった。君がすきだ。 鍵でもかけて何処かに放り投げてしまいたい想いが溢れて零れてぶるぶると 骸の背中を震わせ綱吉は慌てたように撫でさすった。何度も何度もだいじょうぶなのかと訊く声はやはり幼くてけれども 間違いなく彼の声で…。浅はかな憤怒が骸の中でうっすらと湧き出てくる。君こそが。元凶なのだと骸はもう知っている。
この綱吉が悪なのだと。約束をくれた『彼』に何の責任はなかった…。
悪の起源。それがこの目の前の綱吉。
理解した。が、しかし…。


「僕は君をもう喪ってしまいましたよ」


鮮やかなまでに手遅れ過ぎて誰もが憎くてこのちいさなぬくもりを手放し難かった。


(終)











 アトガキ
11月に書いてそのまんまだったもの。発掘!(笑)クリスマスは悲恋ものをとかいってた方がいたのでクリスマスにアップさ!(爆)
2007/12/25