それでも俺はいく











ひらり、と蝶が舞った錯覚が目の前で広がった。同時にチリっとした痛みが綱吉の頬には宿り綱吉はそれに呆れた。掠っただけだ。骸の掴む槍切っ先は今や綱吉の胸をトンと突いたが、それ以上ブスリといかないことは過去の経験上解りきっているから、だからまったく怖くなどない。綱吉の琥珀の視線はじぃっと骸をまっすぐに見つめた。切羽詰ったように唇は開かれた。

「愛してます…、でも、愛せないから、だから僕は…、だからこんな風にしか貴方を求められない。殺しあいましょうよ、綱吉君。僕を少しでも憐れんでくれるというのなら、どうかどうか…、僕に殺されてください」

貪欲な言葉だ。やさしい面皮いちまいだけを被せた顔はさっきからずっと揺れた目をする。その熱く濡れた瞳はまさしく欲情の色で、そうすると不思議と他のパーツまでもが綱吉を欲しているように見えてくるから不思議だ。やわらかでやさしい顔だったじゃあないかそれは面の皮一枚のことだったがそれでも綺麗な真っ白な色の表情でした。どうして?綱吉は自分の何が目の前の男を刺激するのかまったくわからない。意味不明だ。電波だ!今すぐにこの場は逃げ出した方がいいことはすでに百も承知ではあった。けれど。…なのに?うごけなかった。
(あわれ…?)
ポツリと思い浮かんだがそれは即座に却下だった。違う。憐れんでいるわけじゃなかった。ちがう。もちろん殺されたいわけじゃなく。…だが、だがしかし…?綱吉の視線は泳いだ。すいすいと下方へ足元へ後ろめたく、そしてまた目の前の男へそろそろと胸から手へ肩へ首元、顎、そして、また、ゆっくりと骸の目を。

「貴方はボンゴレになるのでしょう…?」
(かなしいのか。)

その目をもう一度だけとらえてハッと気付く。掌に熱が集中する。汗。骸がまたなるのでしょうという。綱吉は曖昧に首を動かしていた。
間違えた。
綱吉は心が辛くひしゃげてしまう音をきいた。間違えたのだ勘違いしていたそれはなんて思い違い!綱吉は泣きそうな目でグッと睨み付けた。これが愛。真っ赤に腫れあがる想い。はかなくつよい。
骸は信じていたのだろう…。信じていたかった。だから悲しい目をする。

「骸…、俺はお前を置いていかないよ?」

裏切ればいいと渇望する瞳の背面は、あまりにも弱々しく切ない言い訳で濡れている。
奪われる未来を信じているのか。綱吉はもう笑うしかない、だってもう手放せない。苦しめばいいお前なんか。




(終)







 アトガキ
……たしか、エロ葉に携帯で送ったのを加筆修正したんだっけ??
2008/06/01(初出:2008.01.27某所にて)