きみが












湖面のような、静かなしずかな新緑の光と影が交差したような瞳がちらちらと舞った。
すまなそうに伏せた目が、しかしどうしてかまっすぐに切り込むような力でするりと心を覗いた。…ああ。 そうしてもそうしたところでも彼は真摯に口を閉じて陽炎のようにゆらりとした柔らかな笑みをうっすら唇に刷いているのか。女のように。…いいや、母親のような慈愛のようなひどくもどかしい残酷なものだ。
男のくせに。なぜそんなにもすべてを受け入れすべてを飲み込む際限なくゆっくりと全てをすべて赦すような光を纏うのか。男のくせに。それは美しいことじゃない。…だが醜くもない。…献身。美しくもないけれどもきっと君を美しくする業だろう。君は聖人なんかじゃない。
ゴクリと喉がなる。此れが魂を磨くのかと思うと無性にじわっと腹の底が冷えて鈍く焼けるように痛むのだ。
「 骸 、」
まるで石ころのような存在感に成り果てた虚脱感。心の奥の奥に眠った傷が叩きつけられている。
君は残酷だ。幾度として伝えた言葉が今度こそ本当の意味を纏ってガウンと放たれた。だが重くズンと響いただろうこの弾丸に彼は射ち落とされずほろりとほどかれたようにわらう。よろりと傾ぐ身体にはもうその手は伸ばされない。どんな言葉も彼を傷つけないのか。鬼め。
まっすぐな目が鏡面のように無機質にきらりと輝くだけか。そうか、ああ。…なんて酷い。なんて様だ。
それでも…。
『僕は君を知っている』と叫ぶこのどろどろとした感情は…。
(君はね、昔っからひどい人でしたよ…!!)
じわりと目の前が熱くぐるぐる霞む。てばなせなかったのは君だと大声で詰っていた。君こそが…!!
彼はとっくに手遅れな生き物だと知らない振りをして。
えんえんと。延々と、怨々と。
君と出会ったことが世界で一番の無駄なことだったといわれるのだけは耐えられない…!

「君が僕を愛したくせに……!!」



(終)




 アトガキ
3月の新刊没文。産みの苦しみってヤツさッ☆(殴れ!!!)
2008/06/01(初出:2008.03.10ブログにて)