咬みつきたくなるのは喉元かうなじか。それとも自分は彼の心の臓を食い千切りたいのだろうか。












Fang












「君は猫のようだね」


………は?
ツナは目の前の男は今自分に対してなんと言ったのだろうかと………、やはり考えてはいけない問い返すなど 以ての外だ殺されてしまうんだから仕方ないんだよ等と言い聞かせて 考えることを早々に放棄し素直にツナは硬直することをまっすぐに選んだ。
そんなツナをどう見ているのか。彼はただ無言で少年をじっと見つめていた。
まるで興味のない無関心さに渇いた瞳でありながらも何処か黒く艶めいた視線。 唯でさえ端整な顔をされている彼である。そんな美しい彼にただ黙ってじっと見つめられているというのは矢張り ……、ああ、矢張りどうしても怖いと思う感情の方が先に立ってしまう。 其の綺麗さを鑑賞出来るゆとりというモノを持つことなど到底出来ない程に 彼の恐怖政治にどっぷり引き込まれてしまっているツナに今この(珍しく彼が大人しい)瞬間だけでもいいから そんな余裕を今すぐ作ってみろだなんてコトはまったくもって無理も無理中の多大に無理無理な話だった。

「…だから、さ」

ね? …と。
黒猫の毛並みよりもツヤツヤとした闇色の美しい声は耳元近くで囁かれたようにひどく響いて、ゾクリ、背筋に電気を流す。 彼はふっと面白そうにニコリとわらっていた。

「…あ、…あ、あの……ッッ」

なんて威力だ、静かな応接室ではヤバイじゃないか。 元々がよく通ってるし、耳にはっきりと低く響く彼の声は此処では魔力を持ったみたいになる。 ツナは数瞬の寒気をやり過ごした後にすぐさまにババッと冷たくなった両手で自分の耳を力強く塞いでしまっていた。

ヤバイ。ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ…ッ!!!…ヤバイ、ヤバイヤバイヤバイ………!!!!!

ぐるぐると赤色模様が頭の中で駆け巡る。怖い。ヤバイ。怖いです笑顔!!!
泣きそうだった、そんな少年に気を良くしたように彼は顎に長い指をそっと添えて笑みを深くする。
鴉の羽根よりも更に滑らかに黒い前髪がさらさらと揺れて、その隙間からは極上の黒曜石が深く輝きながら覗いていた。 其れは綱吉しか見つめていない。まっすぐに切れ長の瞳でちいさな彼を食い入るように見つめてくれている。

「うん。猫みたいだ、綱吉」

満足そうにわらう、黒豹。
ヒバリはニコニコ微笑んでツナの方に両手を嬉しそうに伸ばした。白い手。 其れがすぅっとツナの両脇に差し入れられた。
そしてツナはもういっぱいいっぱいで。ただただ硬直するしかなくて。 ひょいと抱き上げられても大人しくするしかなかった。……というか、頭がグルグルぐるぐるしてて それでもう何もかもがゆうこときかない程にいっぱいいっぱいパンク寸前だったんだから。

(いやだぁーーー!!!怖い怖い、むっちゃくっちゃ怖いって!!! なんだって、この人ってば今なんてことを俺に向かっていっちゃってくださってんですかぁーー!!?)

あうあうあうぅ…と泣きそうだった。……いや、もはや号泣だ。えぐえぐとツナが泣き出したのを見て、 ヒバリはくりっと首を傾げた。
殴ってはいない。試しに両手をあげてツナを天高くかがげてみた。(たかいたかい…)

「…………………」

高いところは別に嫌いなわけじゃあないみたいか。
(……自分が元凶という自覚はまったく持つことのない彼は実は結構天然なのだろう。獰猛な程に)

「綱吉」

へんじ。

「綱吉?」

しなさいよ。






(……やっぱり君は猫だ。だって、)


サラリとカーテンが鳴る。風にはたはたとゆれて影がちらちらと床に散った。
綱吉は色素が薄い。窓から届く光は彼の薄い色の髪を金色っぽく見せた。


「……………ねえ、」


まるで子猫の綿毛のような毛並みみたいな髪。
ほわほわしてそう。でもさらさらとした感触なのはよく知っているのだ。
垂れた頭。泣いた目。雫。
首は細い。胸板も薄くて、腕も足も細くて抱き上げたら軽い。


(美味しそうだ…)

猫だ。きっとこの子は猫だ。猫だ猫だ。猫でしょ。


『僕の、……』


「咬み殺されたいかい?」
「い、いえ!!!」
「……そうか」
「ざ、残念そうな顔しないでください…(あと下ろしてください)」
「残念だからね」
「…………………………」

蒼白になってまた涙滲み出したツナにクツクツと優しい微笑みをみせてヒバリは思う。
ツナを抱き寄せながらソファにストンと腰をおろし、大人しくなったツナを膝に乗せて撫でて撫でて。 そうして諦めるように脱力して、ヒバリの肩にコトリと頭を乗せて諦めた彼、その白いうなじ。それが好きだと。

いつか殺しあうだろうその日まではそう思おうと、ソコへ赤い舌のばして。



「猫だよ君は。だってねえ綱吉?僕は君をとてもとても可愛がっているのだから…」


猫可愛がりだろう?
そうゆっくりと深く微笑みながら囁いたヒバリに。 改めて。ツナは彼のズレっぱなしの思考回路に頭をおもいっきり悩ませた。
(………深い処では何となく気付きなからもそっと額を肩に擦り付けるだけしてツナは強く目を瞑った。)


「綱吉、好きだよ」

『 ああ、なんて咬み転がしたい子。 』










…うなじに触れるその唇は酷くやさしかったけれども。


(終)











 アトガキ
初リボーンで初ヒバツナ。おおう、当初の予定ではアマアマダッタヨー。(………)
2005/09/28