HONEY HONEY HONEY !!











今から泣きますからどうか最後まで余すことの無いように、ぺこり。
風のように(音もなく)颯爽と現れた骸はそんな口上をすらーっと述べて、ぼんやりしてる綱吉を置いてけぼりに綺麗にお辞儀までして…、ハッと気付いた綱吉は思わず待った!!とガサガサガサ…ッ!と机の上にある書類を何枚も巻き添えにして、ぱっと開いた掌を必死にのばしてあたふたと寸でのところで骸にストップをかけたのだった。
骸が日々の仕事に疲れているのはわかっているが、綱吉だって十分拷問に耐えているのだ。わかってくれ…!!
(ごめん、ここ労働基準法とかないから…)
すごいとんでもないこというなあお前はーと綱吉はゴリゴリとこめかみを人差し指の第二関節でもって痛いくらいに揉み解していた最中にやってきた骸の台詞に軽く、正直いって、けろっと吐きたくなった。そうか、泣くんか。泣きたいのは俺だなあーと綱吉に更に痛んできた頭に途方に暮れながらどうか俺を大事にしてくれ!!と何遍も頭の中でぐるりぐるぐると繰り返していた。二日酔いの痛みだってこれよかひどくないよ。きっと骸が泣く前に自分のが盛大に泣きだせる自信が綱吉にはあった。生まれる前からわかってたみたいに。

「じゃ、泣きますから」
「泣くな!!!」
「…なきたいんで」
「じゃあひっそりと自分の部屋の片隅で膝抱えて泣いてろよ!!」
「いやですようー、そんな、君みたいな…」
「どっからきたその偏見!!ひど!!」
「でも実際泣いてたじゃないですか…。あの忠犬が君を軽んじたマフィア相手にキレて屋敷が」
「あれほど打ちひしがれたこともないもんでね!!」

ハッ、ハッ、と綱吉は肩で息をして、それであらかた落ち着いてきたら、ふぅーっと深い溜息を吐いて椅子に深く座り直した。ギシリ、と軋む音。そして綱吉は子供のようにくるりっと椅子を回転させた。くるり、くるり、繰り返してつんと口を尖らせて、骸、ちいさく刺々しく彼の名前を呼ぶ。骸は丁寧に、はい、と返す。くるり。綱吉はまた深い溜息を重っ苦しく吐いたら、ぱっと目を上げて骸を見上げた。チカリと琥珀の瞳に光が入り込み骸の目に綱吉の目がまるで甘ったるい蜂蜜に見えて、思わず骸も甘く微笑んでしまった。骸。綱吉が怪訝そうに呼ぶ。その声もあまい。あまったるい。骸はくすくす微笑んで、はぁい、と甘ったるく返事をかえした。

「なに、笑ってんの?」
「え?幸せだなあって」
「で、なんで泣きたいの俺の前で」
「ああ、幸せだなあって」
「………………は?」

なにそれ。くしゃっと眉を寄せて、どうか嫌がらせは余所でお願いします?と雄弁に語る瞳は蜂蜜色のまま。ああそれに口付けたいなあと痺れるような身の奥の甘い震えに骸は微かに頬を上気させながら、…君が、と風のように囁いた。

「笑っていた」
「?」
「夢の中だったけれど、僕は現実でも君が笑っていたのを見たから」
「うん?」
「嬉しくなって泣きたくなって…、だったら君の前で泣こうかなって…?」

ね?いいでしょうと子猫が擦り寄って甘えてくるような声が骸の口から零れ出した。綱吉はぽっかりと口をあけて、ぱちぱちと忙しなく瞬きを繰り返して、そんな、ばかな…、なんて言葉をぺちっとてのひらで額を覆いながらようよう紡ぎ出した。ばかな。それは自分こそが言いたい。そんな馬鹿な!!骸はぱらっと涙を零した。微笑みと共に。くすくすとくすぐったく笑いながら綱吉の近くへとすいっと足を進める。ああ、これ。宝石にならないだろうか、この涙。そしたらそれで君を飾るのに。 君への想いが永遠に君と共に輝けばいいのに。ぱらぱら、ぱらぱら…、骸は泣き出した。そうしてぽかんと自分を見上げる綱吉を見つめる。蜂蜜色の目。その中にぽとぽとと幸せそうに涙を流す自分の顔がうつり、骸は一度目を瞑って、ぱっと開けて睫毛の先で涙をはらった。それが綱吉の頬に散った。

「どうか、受け取ってください。これが僕が君に恋した結果だ」

ふれて。唇の動きだけの骸の囁きに、綱吉は気付いて。
特大の溜息を吐いてしかめっ面を零したけれどでもそっと優しく腕を伸ばし骸の頬にふれて、すーっとその涙を拭ったのだった。

「ばかだなぁお前」












(終)











 アトガキ
あさきんたまんのハッピバーでおくったよ〜〜(期限はすでに切れてましたが)爆
2009/04/01(初出:2008/08/24)