かなしいおしらせです。










「貴方は一つを失っただけで全てを失ったわけじゃないのに…」

男の声は震え、とても複雑な感情を織り交ぜられていながらも結局は感激の鼓動がどうしても抑えられないのだと。弾むような、子供のような、はらはらと白い花びらを零すみたいな甘い愉悦に満ちた声で綱吉へとそうっと囁いたのだ。
綱吉は男を知らなかった。目の前の男の理解者然とした…、いや、預言者然とした物言いにもまったく理解が出来ずふるりと首を振る。
泣きそうな怒りが胸の中に澱のようにあった、それを言い当てられているのだろう。思春期の頃の少年の頑なさで拒み、淡くはかない笑みでもって綱吉は男の言い分を遮断する。ちがいますよ。綱吉は穏やかに拒み遠ざける。俺は…、としかし綱吉の唇の中に空白が。……ああ。
綱吉は諦めてはくりと口を閉じ両目を苦しくしならせた。

「……忘れたよ、お前のことなんか。生きても死んでもお前はきっと俺が好きなんだ。生きても死んでも振り向かない奴なんだ」

全てはここにあった。始まりも終わりもなく、綱吉がただただ憐れんだだけの夢が。
綱吉はそっと無意識に両手に篭ってしまった力を抜き、深くうなだれた。












(終)











 アトガキ
心はいつだって骸を選んでいたりした綱吉さん。
2010/02/06 (初出:2008/09/09)