猿回しはどちらが上かを解らせる為にまずサルの耳を噛むそうだ。(へぇ、それだけだったら簡単なのにな…)















猫の飼い方・上手な躾方












雲雀 恭弥。
その流れるような動きで歩む様はまるで美しい猫科の動物のしなやかさを思い起こさせ、 彼はただ其処に存在するだけで人の心にするりと毒を滴らせてしまうような濃厚な闇と血の匂いを放つ。 その上その顔はすこぶる極上の白皙の美貌。 丁寧に丹念に且つ繊細に創られた氷の美貌でその深淵の底を映したかのような黒曜石の 双眸に見据えられれば誰もが瑞々しい禍に魅入られたように心を恐怖で引き攣らせることだろう。 そう、まるで彼は血色の闇から生まれ出でたように深く暗く音の無い虚無の森を連想させる程に 容易くも酷くひとの心を引掻き回しては恐怖で人の目も心までもをまったくの容赦なく突き刺してしまう。 その黒く艶めく氷の眼差し一つ。それで命を奪うことも容易いと誰もが声を潜め囁きあう。
『 人喰い。 』
『 常軌を逸した虐殺者。 』
『 血に狂ったケダモノ。 』
だがそう囁かれる一方で確かに強かにひとの心を叩くカリスマ性を彼は持ち得ていた。 退廃的で美しい姿故か血に飢えた虚無の瞳の孤高さか。常に冷静さを失わずに狂い激しく血を好む故か。 その闇のような黒真珠の瞳は世界に打たれた穴であり 常に血に濡れることを渇望する殺人狂の目だと其れを垣間見てしまった者は皆そう口を揃えたとしても 裏世界の社交の場においても彼のことを話す時は必ず声は潜められる、 それ程までの恐怖の根を張り付かせる絶大なる絶対的な強さを得ている故か。
『 雲雀 恭弥 』
彼はマフィアの世界においてその身一つで一つの勢力としてまで見なされる程の男。 其の『地位』を数年で確立してしまった、世にも稀な美しき禍々しい呪いを持った最高の腕前の最凶の始末屋。







……『始末屋』。
実際のところは其れはあくまで彼にとって副業であり、本業は『マフィアのボスの愛人』なのであったりする。本人談。


















今日もいい天気だ。ツナは書類へのサイン仕事をのろのろとこなしながら、ぼんやりと窓の外の景色を眺めていた。 やはりもう秋なのだろうな、広葉樹はもう葉を黄色く薄く色ついていた。…ああ、空が青い。 軽やかに横切った鳥の羽ばたき。それが何とも羨ましかった。 あんな風に自由に空を飛べたなら、それはどんな幸福なことだろうと。 思わずうっすらと淡く苦笑を零してしまう。……いや、正直苦笑どころじゃないのだが。

「……俺さ、骸さんとヒバリさんも揃ったら無敵だと思ってたんだけど、それって甘い考えだったよね。 なんていうか俺も若かったというか世の中を知らなかったというか……、綺麗な人が残酷な人だとより残酷に 見えるというかなんというか………」
「で、結論はなんだ。言ってみろ。聞いてやる。今なら聞かなかったことにしてもいい」

絶対聞かなかったことにするだろうな。すでに見ない振りなんだからこの子ってば。ツナは哀愁をどっさり 含ませた瞳でよろよろと窓の外の紅葉なんかに向かっていた視線をソファにどっかりとくつろいでいる黒の死神少年の方へと ゆうるりと回した。…ああ、なんだお前本当にこっち全然見てないじゃないか。それ絶対聞く体制じゃないだろう? そりゃこっち見たくないってたくさん解ってるよ?でもね、お前は俺のボンゴレのドンの家庭教師で護衛でしょう? それにぶっちゃけお前が生まれてからの付き合いっていっても全然差し障りもない間柄なんですけど。 わかってらっしゃるでしょう?ねえねえ。……ああ、俺もお前のことわかってるからわかってるけどさ!

「おやおや、どうしました綱吉くん?もうこんな状況は退屈になりましたか?」
「ッ、………た、退屈というか…」
「はい、なんですか?」

ニコニコとした声ですね。
コツンと尖った顎が頭の上にのった。くん、と髪の匂いを嗅いでるっぽい。ツナの中ではもう『どうでもいいやぁ…』 という言葉が頭の中を何遍でものたのた廻っていた。 こうして彼が自分に好き勝手放題なのも、……ああ、慣れちゃあいけないなあと解ってはいるんだけれどもね。 でも抵抗なんてものが彼が喜ぶだけの代物になってしまうのだから、 だからこういう無抵抗さが一種の抵抗でしょう。
よ。
ね?
…うん。

「……………ねえ、リボーン。俺の誕生日を覚えててくれた人がいるのは嬉しいんだけど、 正直にいってこの祝い方はなんかおかしい気がしますがどう思うか正直にいって出来れば五文字以上で」
「おかしいな」
「素敵ですよね?」

…………。(モウツッコミタクナイデスヨー。)
ツナもドン・ボンゴレである。一応は豪胆な心臓を育てていた。(うん、多分。) …と、ゆうわけで。もういいやと身体からゆっくりと力を抜いていく、 だいぶおっかなびっくりであったが全ての力をゆっくりゆっくりずるずると。気力さえもカラッポになるまで。 それはもう傍からみてもその姿まさしくもうお好きにしてください俺は人形ですから状態。 だらりとしたマグロの死体さ。 本当にもうどうでもいいや。死体の気分だ。ツナは泣き笑うようにリボーンを虚ろな眼差しで見つめた。

「おや、綱吉くんどうしたんですかー?」

彼がツナの諦め度合いにピンと気付いて、ごろりと喉を鳴らすようにすうっと顔を近づけて頬に頬を触れあわさせる。 体勢的にきつくないかなぁとツナは思いつつ、されるままに長い指先で素直に喉をくすぐられた。うわ。 指先冷たっ!

「んーー??本日は僕が綱吉くんの猫じゃなかったんですかぁ?これじゃあ綱吉くんが僕のペットみたいですねぇ」

もう、なにもいうまい。
ゴロゴロゴロと上機嫌で喉を鳴らしてるこの男。骸さん。あなたのやる事為す事にもう口を挟むのも面倒です。 というかやっぱり怖いからですが!!……って、なんでこの人男のヒトなのになんかいい匂いするんですか!!? 正直ドキリとしてしまった自分にうわっと更にズドンとツナは落ち込んでしまう。 だって本当にこの人ってばいやもう本当にこの人ってば、なんか、なんか本当に女の人みたいないい匂いがするのだが(シャンプーの匂いかな?)…。 しかも肌もすっべすべ。…ああ、これが本当に女の人の柔肌だったら正直にもっと嬉しがれるのに…!!いや、そういうことじゃなくって!! ツナは自分自身にズビシ!とツッコミしてしまう。 …いやもう、なんていうか。ツナは凄まじく泣きたくて仕方なかった。うん。この人ってさ。
……………いやもう今更か。



『やあ綱吉くん誕生日おめでとうvvあ、これは僕からですよ!ほら、可愛いでしょうとてもとても!』

突然ババーンと窓からやってきて、最近の多忙な日々のおかげで自分でさえうっかり忘れていた誕生日をそんな風に 我が事のように喜んで祝ってくれるというのは正直本当に嬉しかった。……この人が『骸さん』じゃなかったら。
ニッコリ満面の笑みは本当に綺麗でそれだけを鑑賞するなら心は割とほんわかする。内面を知ってるって嫌だなぁって こんな時ほど思うこともないだろう…。ああ、いやだいやだこわいよこわいったらないよ、この人ったらこんな満面の笑みしちゃってねぇ!?

『ほらほら綱吉くん、撫でてみてくださいなv』


しかも。
ネコミミツケチャッテサァーーーー………。








( ……それで、なんで俺はあなたさまの膝の上に抱き上げられるのでしょう?猫なら膝にいくでしょう? どうして俺の方が猫の膝の上!?……ま、まあ怖いからもう追及しないでおきますけどね!!? )





よし。警備を増やそう。そう決意した瞬間だった。(無駄な足掻きだとしてもそれでもそれでも…。)







「まあ、俗なテレビじゃマフィアのボスの膝の上にペルシャ猫がいるな」
「……うん。俺も一時期そんなイメージあったよ。美女はべらしてるとかさ」
「大丈夫ですよ綱吉くん!僕がいるじゃないですかぁvv」

ねぇ?といって骸はゴロゴロと綱吉の頭に懐く。うわ。なんというかツナは自分のちいささを今呪ってもいいかもしれないと思う。 本ッ当にこの人の腕の中膝の上にすっぽりです。なにこの状況は。 ………いやもう、周りがデカく成長しすぎているといわざるをえない。これは日本では割と標準な身長だと思う。 ……ああ、そういえばこの人も日本人だった。 そうと気付いてもツナはもう生温い笑みを浮かべる他ない。なんだって獄寺くんも山本もデカイのだろう。
はやくよぼよぼになって縮めばいいんだ。

「……ツナ、俺を生温い目で見るのはよせ」
「え。だ、だって…」
「今に俺もお前の背なんぞ抜くんだから、妙な呪いをかけるな」
「………………………」

かけれねえから安心しろ。チッ。ツナの口から思わず舌打ちなんかもれたが。
……まあ、自分がちいさいちいさいしてるのは彼らと出会った当初からだし、 今更ドドンとでかくなっても気持ち悪いだけなんだと思うので、 ツナとしてももうそこらへんは諦めてはいる。……けれども、これでリボーンより低くなったらと思うと 何とも微妙な気分だった。そりゃ相手は赤ん坊だった。成長します。……ああ、でも!! 日毎成大きくなるわが子の成長と見るか自分より小さき奴の挑戦状と見るか、 ツナの心はとてつもなく揺れてしょうがないのだ。まあ、そんな事はいいので目の前のことだ!! 骸さんだ!!

「………………」
「なんですか?」

……いや、もうなんでもないですよ。(なんでこの人本当に楽しそうな顔してるんだろ)
ツナはやはりこの人に何言っても聞いてくれないんだろうなぁと、思いきってバッと見上げてみたその顔に 何だかそんなことを改めて認識してしまう。 なでなでと頭を撫でてかわいがってくれるとか、それはっきりいって24歳になる男の扱いでないと 思います。と。…そうも言い出せないのだから。もうこうなったらね、まあ、最近冷え込んできたしさ、暖をとっているとか思えば…。 うん、なんとか。
と。そこらへんのツナ的思考回路が骸を更に近づけているのだという自覚がないらしい。クフ、と笑った骸をごろごろ懐かせたまま ハイハイとツナはまた書類の方へと目をむけお仕事再開、リボーンは密かに天を仰ぎ、ダメツナが…と呟いたのであった。

「…おい。お前さっき俺がマフィアのボスにはペルシャ猫っていった時になんていったか覚えてるか?」
「え?たくさん美女はべらしてる、だけど?」
「そうだ。で、お前がはべらしてる極上の美人は誰だか言ってみろ」
「へ?」

俺がはべらしている美人……?(それも極上って)
ううん??と女にとんと縁が薄い(寂しい)我が身を振り返ってみてもツナにはそんな大それた事をした覚えはない。誰だ。 はべらしてるなんてそんなこと出来るわけないってお前が一番わかってるんじゃあ…、と、そう口に出そうとした時……。
あ。
ぱかっと開いた口と同時に見開かれたツナの瞳にははっきりと恐怖の色がこびりついていた。 ああ…、そうでした。俺のばかぁ!!!瞬時にツナはザァッと顔を真っ青にして涙目でガタガタと震えだした。

「あ、あ、あ、…あ、あの!!?リボーンおれ!!!」
「やっと気付いたかダメツナ」
「お、お、…おっまえ、もっと早くに知らせろよーー!!!ちゃんと判ってたんならもっとさぁ!!」
「いやだって、骸からの折角のプレゼントだろ?」

猫好きじゃねえか。そう飄々と述べるリボーンにツナは目の前にあるペンを投げつけてやった。 リボーンのバッカヤロー!!…当然よけられたのだが。

「まあ、安心しろ」
「なにがだよ!!」
「奴にはちょっと話しといてやったから」
「…………え」

なにを。
そういえばあんたさっき部屋をちょっと抜けてたよね。ねえ、そん時に何かしでかしてきやがったんですかい? おいおい、あんたは何処まで俺をなぶるんですかい。俺あんたの玩具ちゃうんやで?ドンやで、ドン!! あんたの上司!!ボス!!えらいんだからなぁ!!? ツナはガクガクと泣きながらリボーンを激しくギラギラ見つめた。此処が午後の陽だまりでなく暗闇であったなら 間違いなく今の彼の目はキュピピーンと怪しく光っただろう。 必死なまでに殺意と哀愁と切ないまでに我が身の運命の不運さ込めて其の目は輝いていたのだから。

「まあ見ればわかる」
「見ればわかるって、ちょっ、リボーン!!?それって今からくるってことかよ!!!」
「うん」
「うんvじゃねぇーーー!!!」
「ふっふっふ!負けませんよ!!」
「なにをですかぁーー!!!(そんな意気込みすっごくやめてぇーー!!!)」





「……へえ。随分面白いことになってるじゃないか綱吉」



ヒッ。
息が止まった。息が止まって身体から温もりも柔らかさも消え、けれども背中はぞわっと、ぶわっと大量の冷や汗を噴き出していた。 …ああ、首はまるで油を差し忘れた機械だ。ギギギ、と。怖いけれど怖いけれど。骸さん、どいて…、と。そうっと ツナは泣き笑うような顔で背後を振り返った。


「………………………………………………ヒバリさん?」
「ん?」

すらりと長く伸びた白く麗しいおみあし。其れは豪奢な刺繍の施された紅いスリットから覗いていた。
腰をきゅっと絞られたその長い衣。シンプルな造り。しかしだからこそ艶かしい。 身体の線にぴったり添った滑らかな紅い衣。燃えるような赤の中には金糸銀糸で大輪の華が浮かび上がり、 鋭くこの目に斬りこんでくるような険しい眼福があった。


「一般大衆的見解ではな、マフィアのボスの愛人といったら真っ赤なチャイナ服なんだそうだ」
「けろりと言ってのけんなバカーーー!!!!!」

ガシャーーン!!とちゃぶ台を引っ繰り返す勢いのお怒りツナに まあまあと、リボーンに掴みかかろうとすることで離れようとするのを骸は笑顔で抑えた。(お見通しですからv) 彼にはどうせ叶わないんですからね。そう宥めるように言ってまたなでなでとツナの頭を…。

「返してもらうから」

が。ずるっとヒバリが骸の腕の中からツナの首根っこ掴まえて取り上げた。片手で。
24歳の男を片手で。……もう片方の腕ではトンファー構えて骸に向けてたりしていたり。
すごっ。
ツナはにゃーんと猫のようにヒバリの腕からぶら下がりながら、 なんというか…、その、ネコミミ女顔男と極上美女男の火花散る睨み合いというもの見てしまっていた。い、いやだあ!! だからといってバタバタと手足を触れなかった。…だって、怖いもん。きっと普通に落とさずにきっとぶん投げるよこの人。 だってだってベッドに連れ込む時がそうなんだもん。


(…そういえば、ヒバリさんこんな格好なのにどうやって窓から入るなんて芸当出来たんだろうなぁ)

凄まじく美女だ。白く眩しい足にすらっとした躯付き。スリット実は結構エグイ。 ……本当にね、いつもの格好ならまだしも貴方その格好でどうやって…?んん?? (もしかして中見えるのとか気にせずにかこの人は!!?)
大丈夫かよこの屋敷!(そして評判もだ!!)ツナはちらとリボーンに目を向けてみたら、見事につーんと横向いてた。(てめえ!!) この護衛やっぱり役に立たねえーーー!!
もう、泣きたい…。獄寺くんに居て欲しいと切実にツナは思ってしまう。だって今爆破したい気満々だから。
でもボスだから…!ツナはぐす、と鼻をすするとキッと目を険しくした。(ヒバリの手に首根っこ掴まれてぶらぶらしながら)

(うん、警備をたくさんたくさん増やそう!お給料も上げればその分必死になると思うし!!)

と、固く誓うツナ。 それは無駄な足掻きだからやめとけよな?と読心術なくともツナの心境などお手の物なリボーンは密かにつっこんでいたのだが。









(続)











 アトガキ
と、とりあえず後で直すので!!
2005/10/30