世界大迷惑物語










「君のせいで世界が大迷惑しているよ」

ぶっきらぼうに言い放ったがその言葉の中には乱暴なまでに真摯な願いや身勝手な欲望や最大の困惑などがぎゅうぎゅうとつめこまれていて、それなのに…それを放り投げた雲雀の顔はまるで縁切り寺の地蔵のようにぴたっと静止してしまったままなのだ。無表情だ、物騒に。…そしてどれが本当だ。真正面から放たれた弾丸のような言葉にくらっと軽い眩暈をひき起こしながら綱吉はむすっと唇をとがらせた。子供っぽい仕草だ。年はもう20代半ばを過ぎたというのにその顔はまだまだ十代で通じそうな綱吉がすると何ともしっくりかっちりと似合ってしまう。スーツよりもジーンズとトレーナーがよく似合う彼だ。…例えマフィアのボスになっていようが彼の外見はちっとも実年齢に追いつく気配がないくらい。…なんて無駄でとても無情な流れだか。 ハア、と雲雀は重苦しく溜息を吐きそしてギシリと表情を僅かに苦く歪ませた。…そう、ちっとも変わらない。それが周囲を悩ませているのだ。雲雀は腰を落ち着けたソファに、ふんっと両手を組みながらふんぞり返り、君もまったく悪人だといいきった。悪人め。マフィアのボスですからねえと綱吉はのんびり頼りない声でそうっと返し雲雀は珍しく短く舌打ちした。まったく!!
「…………怒らないから」
「へ?」
「怒らないから」
「…う?…え、ええ??」
パチパチと目をさかんに瞬かせて綱吉はぱちくりと暗鬱な空気を纏った恐怖の権化の先輩を眺めた。ヒバリさん…??困惑を極めた綱吉の顔のこめかみには冷や汗がじわりと浮き始めていた。ヒバリさん…。頼りない声がちょろりと泣きそうにべしゃっと潰れていく。
「六道骸がまた世界征服はじめるなんて自棄…、君と喧嘩でもしなきゃやんないでしょ」
「…………」
「迷惑だよ君ら。ハッピーエンドの後を生きてるから仕方ないかもしれないけれどね…。いや、そうじゃないか、…相変わらずだよ君らはくっついてもくっつかなくても」
「はあ…、さいですか」
トントンとしきりに雲雀は指先を打ちつけた。面倒くさい。骸の趣味は放置でいいが綱吉の趣味はとめたいのが本音で、…ああ面倒くさい。最悪なのは気分でもあるがこの綱吉という人間の悪性な人柄だ。善良さだ。…また無頓着さだ。綱吉は善人であるがゆえにとんでもなく鈍い面もある。受身だからいけない。マフィアのボスとしてそれじゃあ駄目でしょうが。雲雀の指が打ち付ける速度はもうすでにトントンという可愛らしさはなくズドドドドドッ!とミシンみたいにはやくて重くなっていった。…ヒバリさん。綱吉の声は相変わらず弱弱しく頼りなくちいさい。
でも目の煌きはいつだって静かに冷たかった。

「で、なんで喧嘩したの君ら?」
(わかってる。あいつはいつだってこの小さな生き物のちぐはぐさが怖いんだ)
ヒバリは溜息の中に薄い恐怖を織り交ぜて吐き出し、ぴたりと指を打ちつけるのをやめた。世の中は無駄なことがとても多く、彼らが恋をしなければ世界もきっと平穏だったのだ。











(終)











 アトガキ
ツナの兄貴分は雲雀さんだよ…!!!!!!!!…そしてちょこっとだけちまりと直した。
2010/02/06 (初出:2009/06/26)