こわかったのは。










「おまえのせいで死ぬのはいやだよ」

すっきりとした言葉は綱吉の妙な甘えた口ぶりも重なってひどく無垢な響きで骸の胸の中にちいさな点のようにぽつりと届いた、その声はまるで白い角砂糖が薄い色の紅茶の中でぐずりとゆるく溶けていく様を思い出させて、その響きがその静かな声が淡い言葉を紡いで…そして彼の瞳の色は飴色にてらてら甘く輝かせる。
綱吉の目に恐怖はない、死という言葉を呟いたのは確かに彼にとって何らかの恐怖からだったのだろうと推測されるのにその原因がまったく骸の目の中に映り込むことはかなわなかった。骸が綱吉の心の中を覗くことが出来ても彼の心の中はぼんやりと茫洋としたままで固く強張ったものを見つけられない気がする。
恐怖とはなんだろう。彼が恐怖するもの。綱吉が恐怖することは。眉間に静かに皺を寄せた骸はだんだんと喉奥を締め上げられる気分がしてきて不快が腹の中でじわりと存在を熱くやかましく主張してくることに苛立つ。不快ですよ。唇だけでそう呟いていた。
彼の目はまっすぐに骸を見上げてそっと自分の首に絡まる骸の指先にちいさな指先を添わせたのだ。





(終)











 アトガキ
うしなうのがこわかったから『永遠』を望んだ骸。無自覚。
2011/03/06 (初出:2009/10/04)