着慣れないものなんだから仕方がない。そんなこと気付くのが遅かったなんて…。(泣きたいなぁ)














緊 急 会 議












ドン!!とツナはいつもと違って毅然とした姿勢で唐突に拳でテーブルを荒々しく叩いた。 それにビクリとしたのは獄寺だけで。 他のテーブルに揃ったリボーンや山本はいつもの澄ました顔で普通にずずっと茶を啜っていた。 まあ、そこらへんはツナとて予想の範疇だ。そこで怒りが暴発することはない。そんなところに怒りを 見出すなど最早有り得ない領域まで飛んできているのだから。 所詮はこいつらは好き勝手自分ルールの人で獄寺だけは忠犬ゆえに リアクションを顕著にとってくれるというだけで。…ああ、きっとこの人もそんな風に驚いたって中身絶対 驚いてないんだろうなぁ。どちらかといえば少々心配?その程度。 ツナがとてつもなく怒っているなんて思いもしないのだろう。
ツナは獄寺が用意してくれたお茶を一口飲んでじわりと喉を潤すと、ゆっくりと。 苦く閉じた口を重苦しくゆるゆると開いた。 とてつもなく切羽詰った眼差しで。

「……今回、特別緊急幹部会議を開いたのは」

幹部。本当ならもっといるのだが、このように四人だけ(ヒバリ欠席)の緊急会議というのはかなり 切迫した状況で行われることが多い。(そしてただだべるのもこのメンバーでもあるのだが。) 獄寺はきんきゅうかいぎ、とその言葉を反復してツナの言葉の先をゴクリと待った。 山本も、ようやくツナの常にない真剣な表情に気付いたりして。お、と。そんな風に目をちょっとだけ 見開いて彼もまた静かにツナの言葉を待つ。そして、……リボーンはただちらりとツナの顔を見ただけで、 はぁ…、と。既にその先を知ってしまっている者の呆れ顔でこっそりと、しかしツナに見せびらかすように解りやすく溜息をゆっくりと長く吐いた。

「今更だろうが」
「そこ、静かに!」

ビシッ!と熱血教師のごとくにリボーンを厳しく注意を飛ばす。そんなツナにリボーンは、ケッと軽く笑った。

「ダメツナが。気付くのが遅いんだよ」
「うるさい!俺はそういうの慣れてないんだから仕方がないんだよ!!」
「だからオーダーメイドにすりゃあ良かったんだよ。俺が言った通りに」
「幾らボンゴレのドンになっても俺は一般市民!!そんな事出来るわけないだろう!?」
「そんな意識は捨てちまえっていってんだろ?」
「小市民的なところが俺の美点ですから!!」
「はいはい。残念」
「なにそのオチは!!!」

バカー!バカー!!リボーンのバカァーー!!と指差し叫ぶツナ23歳。お前は園児か、とリボーンは知らんぷりで 頬杖をついてそっぽを向いた。彼は今年11歳になる。
山本は遠い目になって思う。ツナの精神年齢って変わらないのな。そして坊主は年相応になってきたなぁ…。 少しだけ心を華やかせながら夕陽の中に佇むあんちゃんの眼差しで二人を見つめた。
まあ、それはいいとして。

「大体獄寺くんが悪い!!」
「え!?あ、…え?お、おれですかーー!!?」

バッ!!とまるで急回転するかのようにツナはいきなりオロオロ傍観していた獄寺にばっさりと有罪を言い渡す。 え、なにそれ。まさしくそんな、鳩が豆鉄砲を食らった顔で、何故ですか十代目ーーー!!!!と蒼白になって 叫んだ。うるさい。

「だって俺の着る服用意してるのは獄寺くんでしょ!?」
「は、はい!!そうですけど何か不都合が?だ、だってとてもぴったりで大変お似合いでしたよ!!?」
「そう、それが問題なんだよ!!!」

え!?どんな問題が!!?十代目の凛々しきお姿が影で売買されてるんですか!!!? ガガーーンと大岩に頭が強かにぶつかったような相当のショックを受けた獄寺隼人。 (自他ともに認める熱烈ツナマニア。)どこのどいつだぁーーーー!!!!とババッとダイナマイトを取り出して 今から果てさせる気満満だ。
と。そんな傍らで山本の頭の中にピンと電球が光った。
獄寺が用意する服なんていったら主にドンとして公けの場に現れる時のものばかりで、そうなると、…ああ、 あれしかないなぁと山本の口元に呑気な笑みが零れた。なんというか、うん。
ツナだな。

「ああ、そっか。ツナがあんまりにちっこくて 男物スーツにサイズがなくて女物着てたことを今更知ってショックだったってことか?」

「そう!!その通り正解だよ山本!!!」

ビシ!!と腰に絡んで泣きついてきた獄寺の額に鋭く裏拳かましつつ、ツナがくわっと吠える。
そう。実はツナはその身長の無さや肩幅の狭さから男物のスーツではさっぱりサイズがなく、 仕方なく女物のスーツを着せられていたのだ。
しかもそれがなんともよく似合った。
女物ゆえに腰は男物よりも細く絞られおりで華奢なツナの身体をしっかり綺麗に仕上げていた。 その上後姿はなかなかに可憐に匂い…、まさしく問答無用に似合った。 だから(ほわわんと頬を染めた)獄寺もこれが女物だとは言い出せず。リボーンは知らねえんだろうなぐらいの 感想で見つめ、山本は普通に似合うなあとおもうだけで女物を着てますなどとは告げなかった。
そうなるとスーツなどさっぱり着ないツナがボタンの閉め方が違うと感じただけで其れが女物ということに気付ける筈がなく。

「……ど、どおりで、さ。…ほら、なんか視線痛かったわけだよね。 そして、この前なんかさ、カクテルドレス?そんなもんもらっちまってさ…」
「よかったな」
「よくねえよこの野郎どもチクショーーーー!!!!」
「じゅ、十代目落ち着いてください!!すごく似合ってましたから!!そのドレスだってきっと似合いますから!!!」
「おいおいそれが問題なんだろう獄寺?」

あっはっはっは。そんな快活な笑みで山本はツナにゴスッ!と殴られた獄寺をやさしく見つめた。
と。 そんな騒がしい一幕の最中。常ならばそのまま無視と無関心を両手に静寂を求めて部屋を出て行く 若年寄りなリボーンであったのだが、今回彼は未だに席を外してはいなかった。 しかも、ギャーギャーと煩い中でふっと、そろそろかと呟き、密かにテーブルの下で準備していた携帯をピッと鳴らした。
途端。
バターーーン!!と扉が大仰に開かれた。 それにツナと山本(獄寺もいちおう)はビクッ!!と肩を揺らし、なに、しゅうげきですか!?とバッと懐に手を 入れて顔を瞬時に険しくした。が。

が。

世界は真っ暗に一転した。
それがツナのしょーじきなウソもいつわりだってゼンゼンない感想であった。
思わず親の敵のように握っていた獄寺の胸倉さえボトリと落ちる。



「やあ、綱吉くん」
「………………」


ドレスきたびじょがふたりもいた。








いやもう足ながいながい。しかも白くてなまめかしいね!!際どいスリット万歳でございますよ!?
あと腰の位置高いし、さっすが美人さんは違う!!まあ胸ないのは仕方ない?でも全体的に細身っぽく仕上がってて。 やっぱりマーメイドタイプのドレスって偉大だね!あ。喉仏とか隠す為にショール巻いてるんだね!えらーい! しかもばっちり化粧が上品にのってって装飾品もシンプルだし。うっわぁ美人さんって何つけても綺麗っすねぇ。 カツラもぴったりばっちり。すっごーい!!







「……ええと、骸さん?」

「ええ。貴方の為にこのように頑張ってみましたよv」
「うん。でもなんかそんな頑張りは……」


「……………………」


わあ。ヒバリさんの視線がもんのすんごぉーくいたいやぁ……。
ツナは泣きたくなった。ビクビクビク…!本当に擬態音じゃなく、身体がそう痙攣してしまう。 こ、こわッ!!ホントにマジ怖いのですけど……!? もう涙がじわりじわりと、真っ先に噴き出した冷や汗に続いて湧いてくるしでもう限界近い。 隣の天女の如き笑みのノリノリ極上美人も凄まじく怖いのだが(なにこの人なんでこんなナチュラルってるのさ!!)、 されども。しかしながら……。 この目の前の美女の殺意の篭った暗雲群がる、超、微、笑!!……には敵うまいて。

なのに。

パンパンと無情にも手を叩く。
そんなビシバシと危機感ばっちりなドンの傍らで平然と無情にもドンを守るべき筈の護衛で最強ヒットマンが。 平然と、平然と、生涯を賭けて守るべきドンの傍らで。 お二人に、こい、と命じなさる。(やめてぇ!!!!)


「…あ、…あの、リボーンさん、そのこの、これはいったいどういったごしゅこーで??」
「女物だって着れば似合う奴はいくらでもいるヨカッタナーハズカシイコトナイナァー」
「棒読みですが!!!?」
「お前も似合った。こいつらも似合う。いいことだ」
「よっくねぇーーーー!!!!」

ばっかおまえ!!俺殺されてもいいのかよ!!あのひとトンファー持ってるトンファーーをーーー!!!!
バックミュージックなんかはあれだ。『ダダッ、ダダッ、ダッ!!ダダッ、ダダッ、ダダン!!!』 未来からやってきた殺人マシーン。ツナとしては未来から来てくれるなら猫型ロボットがいいんだとすっごく思う。

なのに。なのに…。目の前にくるのは。(ものすっごく逃げたい…)


「……あ、あの。えと、…その、…ヒバリさん?」

彼は美女だった。紛うことなく本当にすごく美しいおんなのひと。身長がすごくあるからトップモデルのようだ。 真っ赤なルージュ。赤くひかれた唇が、ニィ、と笑みを型作る。目が。全然わらってない。

「……綱吉」
「は、はい!!!!!」

するりと。常よりもだいぶ低い体温が首に伸ばされ絡まる。あ、やっぱりヒバリさんの腕だ。 そうして顔が寄せられまるで秘め事を囁くような体勢が作られていく。 傍から見れば二人の姿は美女といたいけな少年(23歳です)。 ヒバリはシンと静まった周囲を氷の視線で伺い、そうしてすっとその双眸すべてを綱吉へと真っ直ぐにそそいだ。 綱吉。低い声。睫までさえ触れ合えそうな程に顔が近づけられて……。






「骸の方が僕より美人だとは思っていないよね?」








…………………………。







「おや。まだ気にしてるんですか?僕の方が腰が細かったことを」




……………………は?
するりと背中に凭れかかる体温。そっと冷たい両手が肩に静かにのせられ、顔を上向けば極上の笑顔が 目の前の美女をまっすぐに見据えていた。





「けれども僕の方が美人だ。綱吉は僕みたいな赤が似合う美貌が好みなんだよ」


……え、えと…???あの、ひとの頭上で、ですねぇ…。
ツナは小動物そのもののようにきょときょとと頭上の二人を見比べ、そして、ヒッ、とその火花散る 眼光に慌てて目線そらした。


「え〜〜?綱吉君なら清楚な白じゃないんですか?大体赤なんてけばいじゃないですか。もしかして 真っ赤な情熱の色とでもおっしゃるのですか?ふっ、それはまた古臭い趣向ですねぇ…?」

(いや、多分返り血の赤とかからの連想じゃあ…?ヒバリさんにそんな乙女なとこはないかと)
とゆうか骸さん!!なに肩からするすると手を這わせて首筋とか鎖骨あたりとか撫でてきてるんですかーー!!? そして襟元から服の中に手を忍び込ませそうで、ツナはガタガタと震えて気が気じゃなかった。 だがしかし、それは即座にヒバリの手によってベリッと引き剥がされてくれた。ホッ…。


「ハッ!だったらなんだい?白なんていう頼りない色の方が綱吉は好むとでもいうわけ? 大体君に白が似合うなんて事あるわけがない。腹の中と同じ黒じゃないのか」


…いや、十分似合ってるような…。白。だって、この人柔和で丁寧な顔立ちだし。(とゆうかもう24歳になる でっかいタッパ持ってる野郎が似合うという方が問題なんじゃあ??)ツナはぼんやりそう思った。 そして、やっぱり男なんだなぁ…。こうしてぎゅっとヒバリさんの腕の中に閉じ込めれても胸がない。 胸板です。……なんか本当にツナは微妙な気分になってきた。恐怖さえかなり微妙な立ち位置だ。 (だって何に恐れればいいの?女装似合うこと?この女のような陰湿な争い?それとも 骸さんの魔の手から救ってくれたヒバリさんをですか?)

「黒ですかぁ?まあ確かに僕に似合いますよ?でも黒だと綱吉くんと並ぶと少し大人びてしまいますし、 これくらい可愛い気のある方がいいんですよ。このように落ち着いた清楚さが、綱吉くんの醸し出す 清廉さとうまく噛みあいまるで前世からの恋人のように人々の目には映るんですから」

(え!?俺清廉なんですか!!?それはすなわち童顔ってことで何だか改めてショックなのですが!!?)

「へぇ…。前世からの恋人ねぇ。じゃあ今生では捨てられたわけだね君は」
「前世から、と申し上げましたでしょう?その絆は今も尚太く続き、僕はただ一時の火遊びだって 許せてしまう寛大さを持ってしまっているのですよ」

………………………………。(ちょ、ちょっと待ってください!なにその設定は!!!!)

「迷惑極まりない電波だね君」(確かに)
「おやおや。貴方には及びませんよ。ふふv」

「あ、あの、…あの、おふたりとも、その……、、」

そろそろいい加減ひとを間に挟んで口論して欲しくないのですが!!?というかバチバチと火花散らすのもいいですけど、 其れすっごくあの、すっごくですねぇ!! ぷはっとヒバリの胸から顔をあげながらツナは必死に言ってみるのだが…。でも、二人はその。



『『 綱吉(くん)は黙ってろ(なさい) 』』


「………ッ、」

ぶふぉーーーーーー!!!!!ツナは思わず噴いた。よくわからないが、なんか噴いてしまった。 だ、だめだ!!このひとたちまるで駄目!!!!そんなことムキになってしまっておってそんでそんなことを 言わないでくださいおねがいですから!!!


「ひ、ひばりさん!!なんか可愛いです!!!」
「は?」

ひーひーと呼吸困難なツナに面食らったヒバリは思わずきょとんとしてしまう。 それは骸も同様で、どうしたんですか綱吉くん、と常にない本当の心配の色で声をかけてくれさえした。

「だ、だって!本当にもう、二人とも……!!」

だめだ。本当にだめ!!このひとたちって本当になんかだめ!!
本当に綺麗ですよ。そこらの女の人が敵わないくらいにそれはそれは見事な花だ。でも、それ以上にすっごく。
なんかかわいいよ…。

「骸さんもね、…なんか、…か、かわいいです…ッッ!」
「え?…それは。ありがとう、綱吉くん」

本当に。二人とも立派な大美人です。今の自分はまさしく両手に花なのだろう。でもね。
ツナはまっすぐにヒバリを見上げ、その両手をすっと彼の首へと伸ばした。 ヒバリさん。笑い過ぎて目の端に涙を浮かべたまま、そぉっと両手をまわした。
引き寄せる。


「でも、好きな人が一番綺麗な花ですからね?」

ねえ、ヒバリさん?クスクス笑いの発作のままに、コツン、と額をくっつける。上目使いの目。 きょとんとしたヒバリの目。それがじわりと複雑な色になり、だが、それは次第におもしろむ色へと塗り替えられていった。

『 浮気は許さないよ。 』

赤い唇。ダーリン、とささやいた。





とゆうわけでなんだか有耶無耶のままにツナはこれからも女子のスーツを着ることとなった。 ヒバリがそれしか許さないのだから仕方がない。



似合うものを着たらいい。彼はそういってこの前(復讐のように)メイド服を用意してきましたが……。
(そして何だか味をしめたらしい骸さんは時折女装してやってきます。)















(終)











 アトガキ
11日〜拍手のせていたのを加筆してみました。(うわ)
2005/10/23
そしてたっちゃんリクでお題(19番目)から外してコッチに。