お前の口から零れてくれない言葉が確かにこの胸の中をじんわりとあたためるのです。











それはまるでやさしいこもりうたのように。












かつて神など何処に居るのかといった唇が目の前で何かを祈るようにゆっくりと歪むのを見ていた。
神様なんかいないよ。何処にも。そんなことを本当はとうに解っていてもどうしても縋ってしまっていたかつての自分は 随分と滑稽で情けない生き物だったろう。彼の冷酷な瞳は今でも絶望に似た色で思い出せた。
神様はいない。
本当にそうだろう。目の前に居るのはやっぱり綺麗だったり汚かったりする人間ばかりで 万能な神様なんてものはまったくもって見たことがない。これはやはり何処にもいないということだろうと思う。 でも、無邪気なただの壁の落書きで描かれる神様というものには笑みはこぼれていたが。 (どうして望むことに手が届きそうな人が描く絵程にその神様は優しく可愛らしく見えてしまうのだろうね。)

『 神様。神様。今日は願い事聞いて頂けますか? 』

教会の祭壇前。可愛い女の子はそう歌うように囁いていて隣に立った母親はそうねえ…と笑っていた。
きっと彼女にとっての神様は隣に立つ優しい人間なのだと思う。……ああ、こういう神様ならいいのにね。
知らずツナは微笑みながらその目を伏せた。瞼の裏にはその光景が昨日のように思い浮かべられた。 隣に居たリボーンの複雑そうな無表情もくっきりと。それでも真っ直ぐ前を向いた強い横顔が綺麗で 好きだなと思った。

(ううーん…?俺はもうそんな大層なことを願っているわけじゃないからかなぁ…)

信じることは縋ることじゃないと区別ついた時から神様というものが実際に居たのだとしてもきっともう自分には 用がない代物なのだと知った。 だからもう難しい事など何処にも無くて。本当にもうまっしろなくらいに清清しい。 もう願わない。祈らない。ただ晴れやかな笑みをこの顔にのぼらせ此の手を掴むものを愛すだけで良いのだ。


『お前はまっすぐ前を向いて進んでいけ。振り向いたら俺がお前を殺すからな?』

うん。(……ああ、お前は本当に悪魔のようだね。)
この世に神はいない。居たとしてもいらないよ。
だって。(血色の匂い。不幸を纏い操るような黒い視線。つよくつよく、前を向いて哂う。)


リボーン…。

この身の上に降りかかる運命をお前以上に誰が強く庇ってくれるというんだ?
この生まれはお前が生まれるよりずっと前から決まっていて、それをお前が重荷に思うこともないのに こんなにも必死になってくれる…。 本当にお前は健気なまでによくやってくれているよ。よく導いてくれている。 まるでお前はこの自分の為に生まれてきたかのようによく生かしてくれているね。 本当に、なんだか神様になろうとしているみたいだ。


(……でも俺はねリボーン、神よりも悪魔の方を信じる性質なんだよ)


知ってる?
悪魔は契約は守るんだってさ。
だからもう真っ直ぐ前だけを向くよ。 お前がくれるもの、力強く言ってくれた言葉に込められたお前の誠実な心のままに。 例え、お前がこの出会いを後悔しているのだとしてもそうは言わない、 お前の傷つく姿に其の美しい優しさにゆったり微笑みながら。 なんて優しい悪魔。神様の善意よりも悪魔の良心の方がとてもとても尊いものだろう…。 だからこの世で一番信じて頼れてしまう。
ねえ、どうかどうかお願いだからこの手をずっと離さないでいておくれ……。


(……俺が最後の時に叫ぶのはお前の名だよ)





「目覚めても俺はお前の手の中にいるよ」






愛を囁くのは何処か祈るようだと思った。












(終)











 アトガキ
我がファミリーの一員たっちゃん(笑)のリク。
2005/11/8