僕は貴方の為に産まれてきたのです。
物好きですよね貴方と、草の上をゆっくり撫でる風のような声がひっそりと綱吉の耳に届いた。 静か過ぎる程に穏やかな声はゆっくりと目を伏せるような仕草を思わせて、綱吉は思わず目の前に 立つ骸の姿をじっと凝視してしまった。彼はちゃんと真っ直ぐな背でふんわりと微笑んでいるというのに。 何故だろうか。さらりと揺れたカーテンが二人の狭間揺れ、そっと綱吉は窓枠に手を伸ばした。 庭園。此処から覗ける外側はもう春が近いようにぽつぽつと暖かな色を潤わせ始めていた。 骸。そう呼ぶと彼はすっと背後に近付き同じく庭園を眺めてくれた。 「物好きですかぁ…」 「そうですよ」 よくそう言われるので今更そんな事をいわれたからといって綱吉の中でその言葉に対して 特にどうといった感情が浮ぶことはなかった。 大体、物好きなのは彼らの方だと強く思うのだから。綱吉はクスリと口元に笑みを刷くと背後の彼に 無邪気な瞳を投げかけた。 「俺はただの振り回され屋ですよ。不幸に愛されたね」 「ほう」 不幸ねぇ…、それに彼がくく、と子供のようにわらった。だから綱吉もつられたように楽しく笑った。 不幸に愛された、それは本当の事だろうと思う。 災難なんてたくさん被ってきたし。きっとこれからもずぅっと永く緋色の道を歩むのだろう。 でも少しぐらい。本当は美しいものを見て生きたいとも思う、けれども醜さも見なければ為らないだろうと もう覚悟は決めてしまったのだから。美しいもの、優しいもの、醜悪なもの……。春を置いてけぼりに 夏の道のりへと進むように。活き活きと弾む色を手に、暗い色をその目に映しながら上を向いて。…必死に。 「……俺はね、決して不幸じゃあないんですよ。不幸に愛されたって、俺は不幸を愛していないのだから」 「……………?」 「俺が決して靡かないから口説くんですよ不幸はね。でも俺は俺を愛する人達のものだから、だから闇には掴まらないんです」 そういうことですよ。そうけろりと言いのけた少年に骸は数瞬呆気にとられたようにきょとんとしたが、 だが彼が何をきっぱり断言したかという事に気付いて思わず顔を横向けて吹き出していた。 「だ、だから貴方って人は……!」 「…あー、はずかしいこといった!!」 「そうですね。ほんとうに、貴方は本当にねぇ……」 だから好きだと思ってしまうのだろうか。笑いの発作が治まらぬまま波打った目で見据えてさえ綱吉は凛と立っていた。 骸は確かにこの人が好きなのだろうと自覚してしまう。恐ろしい程に心の中をぬるりと不快にするのだから。 「ええ、ええ…。僕はずっと貴方の傍に居ますとも。死んでも生きても貴方を想いましょう」 「それはどうも。地獄巡りの先輩」 「ふふ。おや貴方後輩になるんですか?」 「いや、全然その気はなく、まあちょっと気分でね」 「そうですか、それはつまらない…」 骸は彼の襟元から覗く頼りない鎖骨からちいさく突き出る喉仏あたりまでをつ、と長い指先を優しく滑らせた。 ここを少しでも強く押せば苦しい。でも綱吉は迷いなく見上げる微動だにせず 光を通さずとも深く輝き帯びる琥珀の神秘さで。ふっと吐息のように。 貴方は殺さないのだときっと殺せないのでしょうと優しく口元に弧を描く。 (きっと、また生まれ変わってもこんな人には出会えないのでしょうねぇ…) 綱吉。綱吉。つなよし…。きっと忘れないだろうこの瞬間さえも。 決して自分が幸福などとは言わず『幸運』なのだという彼を、骸は今度こそ可笑しそうに、また嬉しそうに嘲笑った。 また次の世でも出会えないものかと願いながら。(そうすれば貴方はきっと…) (終) アトガキ むっくんは前世の記憶を持ってるんだ!!!(というわけで)←??? 2005/11/22 |