背中合わせの心、今だけは。

















孤独を孤独で埋める事など出来ないと知りつつも…。












所詮ひとは生きてから死ぬまでたった一人なのですよ。そう言って彼は真っ直ぐな目で 暗雲を眺めていた。どっしりとした雲は今にもボロボロ崩れ落ちてきそうな程 水を多く含み過ぎて、そのたっぷりとした姿は如何にも耐え難そうな風情だった。 雲間には神鳴りが見える。 本当に雨は近いのだ。むわっと土の香りがする。彼の髪も常よりもつやつやとして、肌は何処か ひんやりとして少しベタつくような感じ。もう、いつ雨が降ってきてもおかしくないのだ。

「……でもね、また出会えるんですよ」
「骸?」

手は恐ろしいまでに冷たかった。そして強い力が、彼は壊れないように加減しながらも必死な力で ツナの手を握った。いたい、そうツナは眉を頼りなく顰めさせ苦くわらった。骨がギシリと鳴る。 彼が名を呼んだ。唇だけでちいさく震わせたように。骸。ツナは優しく彼の名を呼んでやった。
きっとどんなに丁寧に呼んだところで振り返らないことはよく解っていたのだが。


「今だけでしかない出会いっていうのもこの世には在るんだよ…?」


それでも彼はまっすぐな背で雨を待った。空が泣くのを見たいからと。美しい立ち姿で。
ツナはこそりと溜息を吐くと、いいよ、と。きっと残酷なことを言ったのだろうという自覚から、 俺も見るよと骸の手を強く握り返した。 (道連れという意味が正しく機能しない世界に居ることをよく知っていた。それでも…。)




『血』を洗い流してくれることを。







(終)











 アトガキ
突発。情景だけを胸に。拍手にありました。
2005/11/28