『Acanthus(アカサス)』というあの教会認定保護動物の吸血鬼ツナとその養女骸様のお話でございますー。
ギャグでいくといいながらシリアスはいってまーす。リボ様いまーす。(むかつくな、この口調…)←じゃあやるなよ!

























A c a n t h u s












『 僕は宝物を隠しました。この世の全てに絶望しても失望だけはしないように。 』



石室は温もりを全てを失わせるかのように暗く氷よりも尚凍り付いていた。なんて寂しい場所だろうか、 でも此処は決して陽が射すこともなく『彼』は安心して眠れるだろう冥府の底よりも深い安住の地なのだから。 まるで闇色の子宮の中。何処までもしっとりと闇に満ち満ちていて、冷たく濡れている……。 誰も知らない場所。誰もが知りようもない場所。例え彼が目覚めてもきっと此処から抜け出せないだろう…。

「……ふふ。もう目覚めないというのにまだ僕は夢想するのですね」

ねぇ、貴方。優しく囁きながら青年は丁寧に横たえられた彼の傍に跪き、ゆっくりと 寂しく微笑みながらコトリとその頭を彼の組んだ手の上に置いた。ちりりと耳元に冷たさが滲みていく。 なんて、なんて細い指先だ。ちいさな手だ。…でも、とても温かかったのだと今でもするりと思い出せるというのに。 ああ、もう二度と?……そんな。もう一度その手で撫でてくれないものだろうか…。一瞬でもいいのだから。 どれ程切ないまでに願った処で叶いようもないというのに、其れでも願わずにはいられなかった。まるで呪い? 彼が好き。彼が居てくれたなら。彼さえ傍に居れば、…ああ、彼が微笑んでくれればまたこの瞳を開いてくれたなら…。 愛してるとまた言ってくれるのなら…………。

「其れは其れで辛かったのですけれどね…。でも、今の方が何よりも」

いいや。安堵しているのかもしれない。貴方が裏切ってしまう姿を見ることなく愛してくれたままに目を閉じてしまったのだから。 そう、貴方はとうとう裏切ることもなく微笑みだけをこの目に焼き付けたのだ。光のように淫らなる色でもって。


『 す き だ よ 。 』



「……僕が、貴方よりも先に裏切れたことは至上の幸福であると僕は認めなければならないのにねぇ?」


きしり、きしり。歯車が軋む。軋む。軋む。 もう二度と逢えないだろう人。もうどんな運命もこの先ぱっかりと開いた虚無の色に放り込まれていくだろう。 さようなら、それなりに楽しめた自分よ。不幸になるんですよ。幸福はもうないのですから。 彼はもう何処にもいない。ただ抜け殻をここに大事に飾って。
不幸になるのです。(災いも幸いもただの運命なのだと一括りにしていたというのに。)





「僕の番いは貴方だけですよ、綱吉くん…」



どうかどうか…。次の世では彼の記憶を失っていますように。(でなければ狂ってしまうんですよ神様。もう誰にも為らないように全てを壊しますよ神様?)























「お前の墓標は稚拙だったな。あいつが膨らんで溶けてだらだらした内側から骨が見えてたぞ?」
「へぇ…」

少女は愛らしくニッコリ微笑み黒衣の青年の言葉にあはははと可憐な声をあげてわらった。 おにいちゃんおもしろいことをいうのね。アイスクリームがお好きなの?え。骨?うちの アンソニーは骨なんか拾ってこないわよ!さらさらとした黒髪を揺らしながら少女は楽しげにわらった。 アンソニーはね子犬なの。なんにでも興味があって、でもそんなことしないもの。 あなた変なひと!少女はまろやかな頬をうっすらピンクに上気させて上機嫌にわらった。 彼女の手に持たれた白いウサギのぬいぐるみは苦しそうにギリギリないていたのだが。

「俺は親切にもお前の爛れた甘い恋の痕を教えてやってるんだがなぁ? 幻滅という言葉をお前もよく知っているじゃねえか」
「そうですね。でも僕は見に行こうなんて思ってはいませんでしたが?」
「ほー」
「だって行ったところで仕方ないでしょう?だって彼はいないんですもの」
「へぇ…」

少女の言葉に青年はくつくつと楽しそうに哂った。そうだ、居ないんだぜ? 帽子を脱ぎ、まるで小さなレディに敬意を払うかのように、サーカスの前口上を述べる男のように 青年は愉快に微笑みながら丁寧に愛らしい少女にゆっくりとお辞儀した。居ないんだよ。 何かの舞台の始まりを予感させる演技。少女はまっしろな笑顔でぱちぱちと拍手を贈り、ええ、居ませんよと 無邪気な笑顔で返した。殺してやりたい殺してやりたいと念じながらも其れでも無邪気にあいらしく…。 彼をいまだあいしているのですからやめてくださいよといえないまま。震えた唇はゆるやかに弧をえがいた。

「あいつは例え人間の血が入ってたとしても吸血貴族の稀少種の末だ。魂は一族が交わした盟約の場所に赴くんだよ」
「ええ…。僕は知っていました。彼は知りませんでしたけどね」
「諦めてお前はお前の運命に嬲られてろよ?」
「ははは。貴方は本当に昔から嫌な人ですねぇ…」
「そうだな。俺はてめえが心底嫌いだからお前が泣くなら何だってするんじゃないか?」
「はいはい。僕はもうしませんけどね」
「いい心がけだ」

ハッ、どうだかな。そういう口調で彼は少女を見下しながら大仰に肩を竦めてみせた。 殺したいくせになぁ…?青年の瞳がキリっと硬質さを増していく。だが微笑む容はやめない。 三日月のような口。細められた目は黒猫のようにギラギラと殺意のように嬉しそうに揺らめいている。 せいぜい俺の目の前に現れるようなドジは踏むんじゃねえよお嬢さん。そう言って彼はズブリと 闇の底に埋もれていった。そうしてガランとした部屋の開け放たれた窓からは 暗雲の背後からようやく恐る恐ると今更のように顔を出した満月の光が皓々と。 傷んだ眼差しを零すように少女の周りの血溜まりをやさしく映し出した。





「甘き死よ、どうか……」

ぽとり。真っ白なウサギがやがて真っ赤に染まっていく。少女はうっすら冷たく微笑み言葉の先を塞いだ。
どうせ叶わぬ運命の身なのだからと。



















「綱吉。仕事だよ」
「……え」

顔の横からぬっと黒い袖の腕がのびたと思えば次にはぐっと両目を塞がれていた。 さっきから呼んでいたんだけど?と不機嫌そうな声が直接耳朶に注がれ、思わず綱吉はぶるりと 肩を震わせた。そこは弱いのだから。やめて欲しいなあと思うがそう申し出れば尚やり出すだろうと 解っていた。彼はサドなんだから。綱吉はやれやれと手に握ったリモコンでテレビのスイッチを切った。

「俺の血が欲しいなら適当に切って持っていけばいいじゃないか」
「だが、その不足分を払わねばならないだろう?今回は僕が代行するというわけにはいかないんだよ綱吉」
「はぁ」

面倒じゃないですか?綱吉はカクンと肩を落としながらそう語った。うん、面倒だね。ヒバリはそう答えるように 綱吉の視界を開放した。彼は数度ぱちぱちと瞳を瞬かせ、くるりとヒバリを振り仰いだ。

「いいよ。行ってあげますよ」
「うん。そうして」

はい、と用意周到に持ってきていた上着をバサっと綱吉の頭に被せるとそのままヒバリはすたすたとその場を離れた。 うわっ! 綱吉は頭から被せられたコートをよじよじと手を動かして頭からどかす。ぷはっと顔を出すとごそごそと ポケットを探り、カサリと紙片が指先に触れたのを確認すると其れを見て確かめるということまではせずに そのままするっと白いコートに袖を通すのだった。窓から見えた空は泣きそうな曇り空。

(………なんだろ)

かつてこの空を誰かと見上げていたような気がした。











(終)











 アトガキ
なんですかコレ?とかいわれそうだねッ☆
2005/12/17