大事にしなくてもいいようなヒトだった。
気付けば守りたいもので両手がいっぱいに塞がってとうとう視界までをも隙間無く埋め尽くしていた。一体どういうことだ? きょろりと何処を向いてもきょろきょろ右や左を向いてみてもずらりたくさんと、ああ、上を見たって どうやったって抜け出せない程に尊いものばかりが積み重なって目の前を塞いでいる。 自由な空は程遠い。 そぉっとこの手を心細い子供のように冷たく頼りない力で掴んでくる。 「……え?」 けれど。けれどけれども、けれども。けれど。 『大丈夫ですよ。僕は生きても死んでも貴方の物ですから…』 『彼』だけが傍には居なかったのだ。とろりとろり蜜色の微笑みでだらしなく血を垂れ流し続けていた。 血を流す。とても屈辱的な事だ。彼はニコリと微笑み痛みを歓喜と間違えているような節があるみたいに この目に映る。 だって右目が潰れている。……ああ、潰したのは自分だったかもしれない。 『だって、貴方がね、僕を駄目にするんですよ?其れってとても素敵な事じゃあありませんか』 パン!と花火が打ち上がるみたいに血飛沫が彼の胸から弾けた。赤い霧のようだ。ゴボリと真っ赤な唇から 赤黒い血がぼたぼたと流れ出す。柘榴の実を磨り潰して作ったものだとは思わないが、正真正銘の血だとは 思えなかった。だってこの人に血が通っているなんて変だ。緑色こそ相応しいと言ったら、 僕としては青の方が好きですよ答えられた。 『僕を殺せるのは貴方だけ。殺すことこそ最大の支配だと思いません?僕の意思も意識も機能も何もかもが 貴方によって閉ざされてしまうのだから。あははは。僕達は結局解り合えなかった。 僕は生きていたらきっと何かが貴方に刃向かうのでしょうねえ。 でも殺してしまえばそんなことしませんもの。…ねえ。ねえ?愛しい人。愛しくて独り占めしたくなる人。 愛しています。愛しているのですから…、ええ。 ねえ? ああ。…あ、 ああ。…ぁ 』 きっとこのヒトに墓穴を深く深く掘ってやって墓石だって重いものを何個も丁寧に置いて花をたくさん与えてやっても 平然と何度として甦ってくるのだろう。パタリと本当に息絶えたのに。 その微笑んだ顔は生々しく蠢いているように見える。 「俺も、あんたが好きだけど。……そうだね、こんなことをしても愛してくれるから俺は平気なんだろうね」 守りたいものをちゃんと守れるように為ったよ貴方のおかげですから。 綱吉は掌に握った赤い眼球にひとつ口吻けた。美しいのはこのヒトだけだったと微笑みながら。はやくおいでと。 厚顔にもヒトリにしないでくれと嗤った。 (終) アトガキ はぐれた一匹の羊よりも50匹の羊の方を選んだ羊飼いなツナヨピ☆(つなよぴって!!!?/なんか流行です) 2005/12/17 |