あれから十年だ。










始 末 屋










自分はあれからどれくらい変わったのだろうか……、 そんなことを頭の中にふっと思い浮かべてヒバリは、キン!とトンファーで銃弾を弾いた。 多分、そんなに変わっていないのかもしれないと思う。 駆け抜けて行く先に立ち塞がった邪魔な輩どもの脆く鈍い骨のひしゃげる音。 耳に鋭く響く銃弾の弾かれる音たち。今日の相手は退屈だとつまらなく思いながら。 ガッと窓枠を掴んで勢いよく外へと全身を投げつけるようにして二階から飛び降りた。
昔からこんなことばかりしている。

(綱吉、この仕事は楽だ)

出掛けの時におもしろい事を言う子だと思ったが(気をつけてだなんて)、こんな状況が待っているのだったらあの時にあの首へ 思いっきり牙を突きたて咬みついておけば良かったのだ。昔から今も絶対にお前の方がたくさん嬲り甲斐があるんだよ?

「……君が帰る頃には僕はもう夕食が終わっていそうだね」

自分はきっと変わってないなどいない。こんなにも変わってなどいない。
あの子に比べれば。細くてちいさなあの子が随分と変わってしまったものだから 自分の変化は些細なものにしか見えないんだよ。返り血も、頬をぬるりと滑ったものを拭う仕草も。 きっともう変わることもなくて終わることもずっとこない。




「綱吉」




『 いいよ。 』



なきそうなかおだね。

あの時のあの顔はずっと胸の奥に大事に仕舞われている。 何度も取り出しては宝物のように眺めている。ステキな顔だよ。覚悟があるの?そう聞いても良かったけれど、 きっと聞かれたかったのだと思うけど。ヒバリは人でなしだ。だから微笑って頷いてやった。 君の行く道が血塗れであるように。


「……ずっと、そばにいてあげる。君が死ぬ間際も喉に咬みついててあげるからね?」

だいすきだよ。あいしてもいるよ。
君の為に何だって殺してあげる。君が望まないことをたくさんしてあげる。

『 だいすき。 』

人殺しをしてるひとを抱え持つ度胸だけはちゃんともってるひと。
(今回の仕事だって綱吉からの依頼だ。正確に言えば綱吉を通してのリボーンからの依頼。 しかしこの仕事は綱吉の為に行われる。綱吉のせいで人が死んだ。また殺されていった。)




「君はマフィアのボスなんだから僕は君の為に歯向かう者全てを上手に咬み殺していってあげるよ」




目を開かせてあげる。閉じないように舌でこじ開けてあげる。

君が選んだ男はこういう男で、君もまたこういうことが好きだろう。君は選んだんだから。
手を伸ばしたのは君から。離せないのも君。此れはひとでなしの恋とは少し違う。





















カツカツと長い廊下を歩く。綺麗に磨かれた大理石の廊下。赤い絨毯はこの前ボロボロになったものだから 現在新調中だそうだ。火気厳禁とでも貼っておくといいよ。ああそうするとあの子が入ってこれないねぇ…と 言ったら思いっきりツナに眉を顰められた。ヒバリは正直に言っただけなのにと思いながら、ふっと笑った。

(大丈夫だよ。本当に困ってきたら咬み殺すだけだから)

あの爆弾男は昔からツナに焦がれてばかり。年々その熱は上昇しているようにも見えるが、今は違う形の強い繋がりを 得ようと頑張っているらしい。それ故に…、今日は久々に絡まれずにすむなと清々とした。
ヒバリはきちんと締めてきたタイを少しだけ緩めてスーツの上着をバサリと脱ぎ彼と出会ったばかりの頃のように 肩に羽織ってみた。……やはりこの方が楽だ。ツナもひっそりとこの姿を目を細めて見つめてくれるから嬉しい。 目の前に重厚な扉が大きく王者のように構える。今は綱吉しかこの部屋にいないだろう。無用心なことだ。
これでも一応ヒバリの副業は始末屋稼業。今回のように殺しや時には死体処理も情報収集もこなす。 ボンゴレの専属のように仕事を請け負っているが、別に他の何処の何とどんな取引をするかなんて自由。


「綱吉、僕だ。報告だよ」


けれどもきっと何処とも仕事はしない。あの日からずっと決めている。裏切らないと。君のそばにいるよって。
( 目を閉じるとあのなきがお。 )
きみがすきだよ綱吉。ひどく優しく殺すようにあいしているよ。

だいすき。


「あと、『ただいま』」





今日の夕食はなにがいいんだい綱吉?

『 雲雀恭弥。本業はマフィアのボスの愛人。 』





(終)











 アトガキ
最後の一文の為だけに。笑。
2005/09/30