「いつかは俺も後悔するのかな…」

気だるげに、のそりと呟かれた言葉は彼にしては少しだけ難しい色合いをしていた。
窓から降り注ぐ光が色素の薄い髪をさらりと不思議に冷たく艶めかせた。常ならばあたたかい色彩で あると思う、けれども彼のは肌はつるりと冷たい色を宿していて磁器のように無機質な綺麗さだったから。
だからかもしれない。
睫毛の先、睫毛の落とした影さえ酷薄さが滲んでいたのだ。
薄い肉ゆえに固そうな印象を受ける頬をささえる手指もつめたいように目に。しろい、なんて色。
清らかさとはこういった色合いなのかもしれない。 ヒバリはふと、そんなことをポツリと思った。
手元でさばいていた書類は血生臭い情報とかなのに。 これを渡したのは彼なのに。綱吉なのに。どうしてきよらかだなんて、ね。 相変わらず綱吉はやる気なさ気な顔で頬杖をついている。冷めた眼差し。遠くを眺めるような、持ち上げた一枚の 書類を覗き込んでいる。なにが後悔するのかな、だ。そんな甘い口調でいったって。三日月のように口許を持ち上げ歪ませながら 雲雀は楽しそうに嘲笑した。これはこれはなんとも酷い物言いではないか。 (昔の彼はもう何処にもいないのだろうか?)
しないくせに。
後悔しているのはこっちの方なのだ、心がキシリと軋んでぎこちなく頷いた。
その少し、綱吉の欠けた姿は傷んだ形というものなのだろうか。 初めて出会った頃と変わらないものは、ただ目の前をまっすぐに見据える瞳。 つらい。琥珀の瞳が冷たく張り詰める。
ぬくもりを忌避するような色を時折浮かべる美しさ。
其れは雲雀にとって好ましい色だった。しかし、胸の中にすっと入り込んでぐちゃぐちゃとしたものを 取り出そうとする。ずるりと蛇が内臓を巡る錯覚に吐き気が込み上げ、強く強く、責め立てられる。 吐き出せ。いやだ。吐き出してしまえばと。弄られ嬲られる(まるで何かを早くに忘れてしまえといわれている)



「…それでも、俺達は此処で生きていくのですね」
「そうだね、死ぬのはまだまだ先だと嘘を吐きながら」




































……綱吉がわらう。

夕陽に照らされた教室が目の前にあった。とろりとゆるみとけていく瞳。 あたたかく笑う。ちいさな君。
守りたいと思った。一生だって傍にいようと。
守る理由をいつも探していた。









(終)











 アトガキ
『きみはよわみをみせないひと』
2006/04/05 ⇒ 2007/01/07 ※ちょっと加筆修正。