君が僕を見てくれるのなら何だってしてやろうと思った。なんだって。なんにだってなってやろうとも。
( 君が僕を愛しても憎んでくれていないことはよく解っているつもりだ。 )









きみをおもう












まっすぐに。柔らかな色で見上げた瞳がふわりと綻び、…ほろり、一雫こぼした。
まっしろな顔がとろりと微笑みを形作り、ふわふわと笑い声を無邪気に零しているようだが しかし実際のところ彼の零しているものといったら血であり涙だった。それなのに彼は、綱吉は、 骸、そうちいさく言葉を嬉しそうに紡ぎ、共にちいさな唇からすぅっと血をひとしずく…。骸。 また呼んだ。うれしそう。……ああ、彼は此れでも憎むことをしないのか。 そう寂しく思ってみても骸にはこの結末をとうに知り得ていたような気がしていた。彼は情け深い。 本来ならば闇に埋まることに向かない人間なのだ。だが血統が、彼の持つ血統ゆえに彼は。

「……僕は、いつだって君が憐れだったのかもしれない」

闇と血と脂と臓物にまみれても君はいつだって健気なまでに青空を仰いでいた。骸は知っている。 彼は情け深い、つよくて弱いひとの子。 彼の愛するひとたちを引き連れて沈んだ闇の中で光になろうと誰も迷わないように しなないようにとひたすら奔走したことを。いつだって笑っていようと泣かなかったことまでも。 (ああ、そんなきみをあいしてる。かわいそう、そばにいてあげるよ。) 本当は君こそが誰よりも日向の匂い。……残酷なまでに。

「………うん、でも、…それでもおれは、」
「……………」

息があらい。腹を深く刺し抉った、きっと、内臓の何処かが駄目になっている。ぜえぜえ、ひどく耳障りな息、 今にも倒れそうだが彼はぐっと気力で立ち尽くし痛みに朦朧としながらも透明な瞳で骸をやわらかく見上げた。 脂汗が額をすべり落ちて長い髪がさらりとゆれた。綱吉はまた、骸とよぶ。むくろ、彼が刺したのは。綱吉が 今命の火を失いかけているのは間違いなく骸のせいだ、しかし。
子供のようにまあるい瞳に浮かぶのは決して悲しみや失望などではなく、ふかく、底知れない何かで。 それが骸の中を鮮やかなまでに醜く抉った。何よりも鋭く煌いた刃。 綱吉の瞳は涙で濡れ光っていても途方もなくゆうるりと穏やかに揺れている。むくろ、またよんだ。…もう、おともなく。

「おれは、…おれとして生きられなかったけど、でも、いいんだ…」
「綱吉くん…?」
「『おれ』として、死ねるから…」

あははは、おれ、むくろにさされちゃったよ。

「多分、俺のこと『かわいそう』って思うのはあんただけだよ。…ううん、あんただけでいいよ。俺は、おれは、…」
「きみ、は……」

ニコリ、子供の無邪気さで泣きながら微笑むは青白き頬の。

「だから俺はあんたを愛することも憎むこともできなかった……おれもおまえも弱いからいけないよ」

(終)












2006/04/13