その言葉を聞いた時になのかそれともその顔を見てしまったからなのか……。










LOST HEAVEN












突然目覚めたようだ。はっきり開いた目の前はまるでフィルムの切り替えが瞬時に行われたかのように 全てが目新しく不思議な程に鮮やかだった。 さっきまで自分は何をしていたのだろうかと思える程に世界がキリリと引き締まり、まったく無駄がなかった。 明瞭なる意識。 そして何故だと思う。疑問はうっすらとのびた。 見たことも無い景色だと思うのと同時に見慣れた景色なのだろうと思う。 異分子は自分なのだと突き放された幻覚。不思議な…、切なさ。

「僕は、何をしていた………?」

目の前には紅く蕩けた夕陽が、白の部屋をべったりと生温かく塗り潰して…。
世界は今この瞬間に終わってしまったのだと誰かが呟いている気がした。


















ハジメマシテと。生温く、そう言って手を差し伸べる彼のまっさらな笑顔に確かに心の何処かがキシリと声をあげた。
何だ。何故この男は自分を目を細めながら見つめるというのにそんな言葉を紡ぐのか…。少年はその解を 求めるように冷たく見据えたが彼はまったく堪えずにさらさらと『これから先』のとか『しばらくの間』のという 生活内容を伝えてきた。少年は交通事故によって家族を亡くした生き残りの記憶喪失者。そして彼はやっと見つかった遠縁。 其の違和感に少年の眉間の皺は密かに深まりを見せていた。

「君の両親の事は悲しい事だけど、君は生きないといけないから…」

しばらくは、と。怪我が治るまではと、彼はゆうるりと優しく微笑んだ。まるでごめんなさいと謝るように。
ごめんなさい。確か目覚めてから暫くぼうっとしてた時にもそんな声を聞いた覚えがあったが、多分 この男だったのだろう。こうして目の前にしてみれば、確かにこの顔は他人の傷を痛む輩なのだろうと 伺えた。自分と重なる部分がないから殊更につよくおもう。きっとこの勘は当たっているだろう。 …そして。ああ、この男は、彼は。……きっとこの人は。

嘘吐きだ。

「君の今後が決まるまで、俺の家に居てください」

沢田綱吉。彼はきっと自分をよく知っているのだ。 この身の奥巣食う暗い衝動も空虚さも全てその目の映し込んだ稀なる人間だろうきっと。 彼の血は蜜のように甘く麗しい。解る。その細い首筋の味…。きっと自分も彼をよく知っている。 彼が血を流す人間でありまた血を流させる人間、そして其れ故に彼は新しい『自分』を与えようとするのだと。
綱吉。その名をひっそりと心の中で唱える。綱吉。優しく微笑みながら、そっと。君は…。

「……いいよ。僕は貴方の家に居よう」

己から切り離す為に。…切ない程に懇願の響きを込めて祈っているのだろう。 その残酷さの深さも知らずにうつくしく。
今の自分は牙を何処かに隠された無力な少年。油断してしまったのだ…。この男は見逃さないそんな隙を。
恭弥はじわりと舌を刺す妙な苦みを味わうように、そっと緩やかに目を伏せた。



この人は、きっと……。自分を宝物のように大切に捨てるのだろうと。





(終)











 アトガキ
自分のせいでこんな世界に来てしまったヒバリ少年が事故で記憶喪失になってしまったので、
『ヨシ!!』とかで此れをチャンスに普通の世界に戻そうとするツナ青年。
ふふ、年の差なんてわかんないねコレ☆(お、おまえーーーー!!!!)
2005/11/27