「君は本当はとても狡猾なひとですよ」 ぽんっと何かの世間話のような軽い口調でもってまったくひどいことを骸は平然とにこやかに述べた。 ……そして綱吉は、だからといって特にどうといった感情が起こることもなく、ちらりとその顔を見ただけで 何も言い返しはしなかった。嘆息もない。ただ淡々と書類をめくった。手さえ休まることもない。 …しかしふっと、細かな睫毛の影が白い肌におち、冷静な目が一度だけゆっくり伏せられたが。 それだけ。 骸はゆっくりと苦笑を浮かべた、まるで慈悲を与えているかのように、 おさなごの面倒をみているともいいたげな、余裕の、おおらかな、懐の深い大人びた笑顔だ。そんな形で綱吉を見下ろす。 見下ろして、また殊更深くやさしく微笑んだ。ニィっと柔らかにのびた口許がまた開きうたうような声がすべりだす。 「 君はいつか僕を愛するでしょう。 『 でも、 覚えていてくださいね ? 』 その時になったら 僕は 君を どこかに 閉じ込めて しまいます から。 誰だって 自分のもの は 自分勝手に していいんですから、 …ほんとうに、当たり前のことですよね 」 さあさあ、今だけの自由を。うたうような声がのろう。祝うようにのろいだす。細い指先がうすい肉の顎を 持ち上げぐいっと視線を無理矢理上向けさせた。間近に迫る青と赤の瞳が凍えた色で愉快そうに笑い歪む。 すき。吐息がそう吐き出される。すきです。ふっと唇にのびた舌がふれた、なまあたたかい…。 じりじりと近付いた顔、その笑顔は、…蠢く。綱吉は骸の行為もその秀麗な顔もすべてどうでもいいように 好きにさせながら冷淡な眼差しで激しく拒絶した…、している筈だ。 拒絶とはなんだ。 それがふいに綱吉の頭をよぎった。…そしてクスリと笑んだ骸はその隙に蛇のように、わった唇の中に舌を潜り込ませた。 |
【 04. ともすれば溢れそうになる感情を、愚かだと貴方はそう言うでしょうか 】 title by 【 capriccio 】 >>Asphodel(アスフォデル) |