まがまがプリンセス★ヒバリでポン!









「……ねぇ。どこの馬鹿がティーカップにココアなんか注ぐわけ?」



 派手な音を立ててカップの中から現れ、机にココアを撒き散らした、手の平大の小さな生き物は不機嫌最高潮で綱吉を睨み付けた。
 褐色のココアが滴る銀色の双棒を振り回して雫を飛ばし、それを足元に投げ捨てて羽織っていた黒い上着を脱ぎ出す。

「何ボーっとしてるの。さっさと氷水持ってきてよ」

 厚手の上着を脱ぎ、それでもまだシャツに滲みていた袖を捲った肌が、やけに赤くなっているのを見て慌てて立ち上がり、階下の台所へと走った。



「……僕に氷風呂に入れって言いたい訳?」

 洗面器いっぱいに氷水を用意してきた綱吉を、それ以上に冷ややかな声で叱りつけ、急いでガーゼを取りに向かった綱吉が再び自室に戻ると、小さくとも尊大な生き物は両腕を肩まで捲り、淵までの足らない背を補う為、綱吉が大事にしている本を踏み台替わりにしながら、氷水の入った洗面器に腕を浸していた。氷水を手で掬っては服を着たその上から肩や頭に浴びせて、火傷しかけた肌を冷やそうと繰り返す。
 相変わらず現状に頭がついてゆかないが、どうやら綱吉の注いだココアで火傷をしたのは間違いようもなく、申し訳ない気持ちで頭を垂れた。

「…………」
「………ゴメン…」

 戻ってきたのかと視線だけ向けてきた生き物に謝罪の言葉を絞り出して、持って来たガーゼを氷水に浸し、適度に絞って砂漠越えする時のローブのように、全体的に生き物を包み込む。
 されるがままになっていた生き物は、黙って覆われたガーゼを引き寄せ、耳元や一番赤くなっている腕の辺りを押さえた。

 時折生き物が視線を上げ、綱吉を見る度ガーゼを受け取ってそれを冷やし、絞り直して渡す。全身に氷水で絞ったガーゼを被っている所為で寒いのだろう、腕で庇っていたお蔭で火傷のない顔は白く、薄い唇も色を失くしている。
 温めてやりたいと思うも、火傷の応急処置の方が優先なのは自明で、綱吉はただグッと両手を握り締めるだけだ。




「………大丈夫?」
「別に……大した事じゃない。大分肌が冷えた分赤みが残ってるだけだよ」

 ポツリと零れてしまった言葉に、その生き物は漸く再び口を開いた。  視線を向けると、冷やし終わったのか、側に置いてあった綱吉のハンドタオルを手にガシガシと頭を拭いていた。乱暴なその拭き方につい手を伸ばすと、その生き物の髪を拭き始めた綱吉を黙って生き物は見上げた。

「俺の所為だよね…。火傷なんてさせちゃって…熱かったよね……」
「君が泣くとこじゃないでしょ。火傷したのは僕なんだから」
 ぬいぐるみか人形のようなサイズだが、人間に良く似たその生き物はぞんざいな口を聞いてその場に胡坐をかいて座った。
「僕だって今までに、こんな馬鹿馬鹿しい目に遭ったことは無いけれど」
「ゴメンね。カップにココアを注いでって書いてあったからつい…」

 髪を拭く手を休め、側に置いていた取り扱い説明書の手順を見直す。
 先日出来たばかりのファンシーショップに、代理で母の注文した商品を受け取りに行った際、「恋が実る魔法のカップ」という謳い文句が付けられたこのカップが目に留まり、一緒にこっそり購入してきた。
 たまたま下校時間の早かった今日、試してみようと思いたち、説明に従ったところ人間のミニチュアみたいな生き物が飛び出してきたのである。

「…手順は間違ってないけど、ココアじゃなくて紅茶だよ」

 一緒に覗き込んだ生き物は一通りその説明書を読み終えると鼻を鳴らして不満を訴える。
 きょとんとしてそれを見下ろした綱吉を見上げて続けた。



「何? 君が呼んだんでしょ、僕を」

 「僕がその恋の妖精だよ」と。いかにも不本意極まりない無愛想なクセに完璧に整った顔でそう告げる。



(否、そこまで非現実的なものを期待してたわけじゃないんだけど…)
 とは言えなくて。
 小さな生き物、否、自称恋の妖精をマジマジと見下ろしたのだった。



「本当は、紅茶じゃないから応じる必要も無かったんだけどね」
 要するに召還が間違ってたわけだし。

 すっかり手の止まっていた綱吉を、側においていた銀色の棒(とんふぁーと言うらしい)で机をガンガンと叩いて促した妖精は当然のような顔をして髪を拭かせている。
「……なら、応じなければ良かったんじゃないの? そうしたらこんな熱い思いもしなくて済んだのに…」
 間違った方法だからこんな目に遭ったのだと、その責任の全てが綱吉にある訳ではないことを知り、多少機嫌を直してくれた妖精にそう意見した途端、ガン…ッと一際大きな音を立てて机を殴られる。

「ひっ……!」
「君達には分からないだろうけどね、召還が行われると僕達の世界に召還者の声が届くんだよ。声と言っても声無き声…祈りとか願いとかそんなものが」

 願い…綱吉の恋を手伝って欲しいと。

「これでも僕は王族に名を連ねる、現在王位継承権第1位の王女だから滅多に呼び出しに応じたりはしないんだけど…」

『君の声は気に入ったから』

 「感謝しなよ」という言葉は耳に入らない。
 今……彼は何と言った…?


「王…女……?」
「飲み込み悪いね。そうだって言ってるでしょ」


「 女 の 子 ぉ ー !!?? 」


 彼……彼女が両手で「とんふぁー」を構え、くるりと身を翻すと、突如宙に現れたそれの巨大版がツナの後頭部を強打する。

「…何で、僕が濡れた服なんかいつまでも着てると思ってたの」
「いや、うん、何でだろうなぁ…っていうか、もう存在自体ワケ分かんなくて…」
 何でだろう、頭が痛くなってきた。
「えーと…、うん、じゃあドライヤーとか持ってきましょうか?」
「熱風、僕に吹き付けたりしたら咬み殺すよ」

 ……随分物騒なお姫様も居たもんだ。

「君が部屋出てってくれれば、魔法でどうにか出来るよ」
「あ、そうなんだ…。うん、じゃ終わったら呼んで下さい」
 指先で撫でるようにすっかり乾いた黒髪に触れる。黙ってそれを許容した妖精はその指を捕まえた。


「名前。まだ聞いてないんだけど」
「あぁ…。綱吉です、沢田綱吉」
「ふーん…」
 妖精は何を思ったのか判別し難い相槌を打って手を放す。
「僕は雲雀恭弥。ヒバリで良いよ」
「分かりました。ヒバリさん」
「…………」


 不満そうな妖精の視線には気づかず、綱吉は背を向ける。パタンと部屋を出、閉めたドアを背にしてその場に頭を抱えて座り込んだ。
 いや、どうしよう、アレ…。

 部屋の中で爆音がしても振り返ってはいけない。破壊音がしても覗いてはいけない。
 それは今までに免疫のない不思議世界の現象だから。

「どーなるんだ、俺…」
 こんな事なら平凡にでも自分一人ででも告白とかしておけばよかったと悔やんでも後の祭りである。











「あ。」

 部屋に戻った綱吉に、冷え切った身体を温める為、肩に座って首筋に腕を回し、直に暖を取っているヒバリが思い出したように言った。


「君、気に入ったから、綱吉の恋なんて手伝う気なんてサラサラ無いからね」
「あなた一体何しに来たんですか、ヒバリさん…ッ!!!!」



End












 からすまるより。
架月さんありがとーーーーーー!!!!!大好きvv(ハイハイ)
架月さんは本当にすごいよ!!あんなにも『ヒバツナーなんですー!!!』とかおっしゃってるのに
ツナ獄・ツナ骸・骸女体化を為しとげ、そしてついには!! ヒバリ様女体化まで手がけてしまっておりますよ!!
いやもう本当に怖いモノなしですな!!あっはっはっは!!
(え?私のせいですって??それは違いますってぇvv)
わたくし、架月さんの書くヒバツナのヒバリ様の格好よさとか物騒さにくらくらしてるんですけどね(いや本当に!!)
でもちっともね。ちっとも女体化ヒバリ様を書かせてしまったことに罪悪感ないくらいこの
キューティープリンセス☆ヒバリ様にもやられちまってるゼ☆
(末期!!)
普通にさ、『ふふ、おまじないだってツナさん!!かわいいなあ!!』とか思えばいいのに
ヒバリさんの素直じゃない乙女っぷり(!!?)のが可愛いなあホントにさあ!!!(末期U)
それにしても魅留喪(なにその当て字!!!)ってこんなお話なんですねぇ…。へーーー。
(うちわで飛ぶ妖精としか知らなかった)
2005/12/4