コトン、コトン、と。ちいさなあどけない声が響いた。
それは心地良い子守唄のようで…、ゆったりとゆっくりと幼子の手を引く母のように眠りの淵まで丁寧にいざなってくれた。 だがふと、よくよく聞いてみて、ハッと。其れは己を呼んでいるものではないかと眠りにつきそうな一瞬に気付いた。

「ボス、…ボス。ねえ、きこえていますか?…ねえ、ボス?」

きこえているよ。青年は微笑むように答えた。ごめんねえ、眠いんだよと謝りながら。
すると白い手がするりと撫でてきた。なでなでと、だめよと、甘やかすような仕草の中ではっきりと否を紡ぐ。
おかしいね。なんておかしいことだろうね。そうされてしまうとくすぐったくて眠くなるんだ。
少女は微妙な苦笑を口許に零して。…また、コトン、コトンと。名前を呼ぶ。だめよといいながら。


「ボス。ボス…。ボス…。きこえてる?」


……ああ、きこえているよ。
少女はなでる手をやめなかった。
きこえているよと青年は答え続ける。

「ボス…」



きこえないんだね?


青年はあくびを噛殺しながら少女の手に撫でられ続けた。
コトン、コトン、…ポトリと少女は囁く。泣きながら愛しく名前を。
















(続)











2007/11/10(初出:2007/10/11)