※『Because I love you.』サンプル


『サワダ』というファミリーネームは実は大変な豪奢なブランドであった闇夜の世界においては。
そのことを馴染みの飲み屋でリボーンからさらっと聞いた瞬間綱吉は思わずぶはっと口に含んだ酒を吐き出しそうになったのだが鬼よりも大変に恐ろしい御仁によるビリビリ痺れる殺気が熱烈なラブコールよりもねっとりギラギラ送られてきたものだからなんとかうんとか冷や汗を滲ませて綱吉は腹の底から根性を絞り出しごっくんと飲み下した。
懐かしい思い出だ、…といっても結構最近のことなので懐かしいというレベルではなく色濃く残った近況エピソードとでもいうのか。さてはて。…だがそれがいつの何時に会話されたことだろうがその話題が脳裏に顔を出せば綱吉は呆然とリボーンに紹介されたお仕事の真っ最中でもふっと遠い眼差しになってしまうのだ…。リボーンは悪徳警官。綱吉はそんな彼に拾われた小悪党(というよりも下僕といった方がいっそ潔いか)。ツナ、と通っているがその本名はズバリ『沢田綱吉』だ。
(……ああ、そうだよなーそうだよねー…あの人ってば半端ないから当たり前かあー)
沢田、で他に思い当たるのは死んだ父母以外なら祖父しか思い当たらない綱吉は五年前に別れたその祖父を思い出す。大変美人な金髪金眼のイタリア人だが何の遊びか日本になど帰属して名前を沢田家康と改名した変わり者というか最早人外生物。だがご近所さんからはよく『元ヤンのニート』とか呼ばれていた。それはおいといて。
まず、彼のおよそ祖父という規格からまるっと弾かれた若々しく美しい肢体は大変尋常じゃなかった、しかも実年齢を裏切るのはその外見だけではなく機能もすこぶる化け物じみて、筋力やバネや回復力に何からなにまで半端なく強靭でそんな老体(?)の若い頃はその手で炎を出してビルを倒壊させたという伝説があるらしい…本人談なので綱吉はどこまで信じていいか解らないのだが、今確かに言えることはきっと今もなお衰えを知らないことだろうなあということで、綱吉はそんな祖父にいつだって畏怖とある種の尊敬とちったぁ実年齢に歩み寄れ化け物めという悪態を込めて内心で舌打ちする。どちらにしろ化け物じみた人だ。隠居している筈なのにちょっと動いただけで瞬く間に閃光のように闇夜の世界を切り裂いて灼熱の輝きで名を刻んでしまう、彼はそういう奇跡を軽々やってのける。生まれながらの王者なのか、煌びやかで残酷で冷酷で、時折見せる寛容なさまや無邪気さを装った無関心な眼差しの笑顔で容易くひとの心を攫うし、孤高の似合う横顔は清らかに美しく整い氷雪よりも冷たく厳しい雰囲気が花のように匂うのでふっと通り過ぎただけでもやばかった…。そんな彼の生業は暗殺稼業。サワダ・ ブランドの始まり。独特のスタイル(若い頃は骨も残さず手から出した炎で焼き殺していたというがその真相は謎だ。)で殺人鬼マニアから絶大な支持を得、また被害者になりたいの会があるとか…。サワダ・ ブランドの礎となることは類稀なる栄誉だとか、綱吉にはそう恍惚と呟く人間の正気が解らない。確かに祖父は殺すことが似合う人間だ、その金色の目は蔑むように他者を見下し固く冷たい清冽さが魅惑する、…ああ貴方に殺されたい、自分を殺してくれないだろうか等々…、ひとの内にある暗い欲望に爪を立てて刺激する冷たく華麗なる支配者ですよなんて愛しいひとだとうっとり囁く声は綱吉の中でいまだに苛烈な鮮明さでまた澱のように嫌悪と共に耳の中に潜む。まるで初恋に溺れた少女のような初々しく熱烈な激情で家康という存在にのぼせ上がった連中は見事な狂信者ばっかりであの手この手とぞろぞろと家康に近づいきていて、家康にくっついていた綱吉は当然そんな人間を飽きるほどに幾人も見せつけられ何人かは顔と名前を覚えてしまっている。(その何人かに殺されかけもしたし攫われたこともあるのだ。)
現在は家康の傍を離れたのでそんな輩とすっぱり縁を切れたが、切れた今だからこそのあの頃のなんとも苦渋と苦悩に満ちた様がよくわかる。いまだに身震いがするわうっかり夢に見て夜中に突然叫びたくなる…。しっかりと強烈なトラウマになっている。本当に地獄の日々だった。
ただでさえ父母を亡くした経験を持ってよちよち歩いていた幼い綱吉は特に多感で、家康に引き取られ大変大事に可愛がられていたのだがおかげで彼らのせいでばっちり父母を亡くしたショックはぶり返して更には対人恐怖症にも陥ったのだから…。本当に暗黒の時代だ。折角家康が可愛い可愛い孫を引き取ったから殺人稼業はやめるよと親を恋しがって泣いていた綱吉にそう宣言して慰めていたのにそれが全く悪く作用してしまってどさっと綱吉にその重荷が、ツケというべきか、そんな何か不条理みたいな、皺寄せみたいなものが一気に寄せられてなんか厄介な引き金にもされて綱吉の病状は悪化の一途を辿り、綱吉との約束だからと律儀に守って絶対に殺しなんかしなかった家康の苛立ちも高まっていった。殺しはしないが綱吉に手を出したらそれ相応の報復はきっぱりしっかりしたがでも徹底的に排除出来ないことに家康の中でも段々とストレスが溜まり、時折イラッと不機嫌オーラを無意識に剥き出してしまい、そうすると綱吉は怯えて家康にくっつき難く…。
…まあ、そうはあっても改善したりな日々もあったりもした一応。だが綱吉が思春期に差し掛かった頃にもう繕い切れずにパンッと限界の域に到達してしまった。そうするととうとう荷物を纏めて。
綱吉は自分を溺愛する家康の元を逃げ出した。
それが五年前。
当時十代で学校も長く通えなかった(攫われたとか転居を繰り返したというのもあるが、一番は対人恐怖症のせいでだ、おかげでまんまと留年もした。)ので、…ただただ家康に念の為と教えられた知識と高い技術力で衣食住を獲得出来ても所詮は子供であったということもあり、また、やっぱり世間知らずでもあったので、……捕まった。
リボーンという厄介なアウトローな悪徳大好きな警官様にだ。













以上サンプルでした!