※『怪獣のパレード』サンプル


彼と、彼の、あいだには抗えぬものが大変抗い難くありその抗い難さがまたその抗うことの出来ぬものにぐるりと巻かれた二人にはまったく解らない代物であるから大変難しい問題でもあったと骸はぼんやりと思った。
ぼけーっと飯台の上に頬杖をつきながら燦々と陽の降り注ぐ縁側を背にして背中をまるめた骸はつらつらと昔のことなど述懐してみたりするとこのことは随分昔からわかっていたのだとじわぁっと気付くのだが…敢えてそこらへんはぱたっと蓋をしておく。今となっては何の意味も持たないしまたこの思考も無意味だろうが…。何とはなしに骸は二人の周囲に撒き散らされた電磁波みたいな厄介な嵐に巻き込まれついにはまんまと貧乏くじを引き上げた悲しい身の上の一人なのだ。痛いほどわかりすぎている。…もし明日死ぬとしたら絶対今から書く遺書にはあの二人の名前が鬱々とした恨み言と共にびっしりと連ねられることだろう。はっきり確信する。主犯と副犯を交互に交換しながら絶対にあの二人の名前は何十回も何百回も何千回でも現れる…。
だがそうしたところであの二人ときたら絶対に口を揃えてその遺書をすみずみ読んでも『なんだこれ』ときょとんと目をまるめて首を傾げるだけだと解っているから絶対死ねない、が…!!
パラリと前髪を零して俯いていた骸はとうとうやりきれなさに固く握り拳を握ってぶるぶる震えたそれを内に篭る激情をパンッと弾けさせるようにふらっと振り上げ思いきりよくズダーンと飯台の上に振り下ろした。
「あなたたちはねえ!!どうしてそう鈍いというか二人で示し合わせたように完結してるんですか!!もうちょっと歩み寄りなさい!!!!」
ぎょっと肩を揺らして琥珀と金色の二対の目がぱっかり見開きながら突如猛獣の咆哮の如くガウッと一喝した骸を一緒に仲良く振り返って見つめる。びっくり眼の猫のように肩をそびやかし暫し固まって骸の様子を伺ったよく似た面差しの二人は同時にふいっと首を回してお互いを見つめ、さっと自分の手元を見つめ、…ふむ、と頷く。さわりと二人の跳ねた髪の先が触れ合った。
そしてそろそろと合わせてテレビへと顔を戻すのだ。
家康は綱吉の肩にこてんと頭を乗せて懐き始めた。それを綱吉は甘受するようにやや肩を低めて見せるのだが、そう見せてガツッと肩の硬い骨のとこでこめかみを強か打って邪魔だと邪険に振り払った。
「…い、いたいこれぇ!地味にってかなんかすごい効く…歯がじんじんするよツナぁ…」
見事にかくーん…と綱吉のいるところとは正反対の方向へ体を傾がせた家康は弱弱しく、よよよ…としなだれるように紡ぎ口のところを押さえる。だが綱吉がノーリアクションであるのでまた懲りずに綱吉の方へと体を傾けて今度はぐりぐりと額を綱吉の二の腕に擦りつける。その様は犬だ。
「邪魔。大体なんでレーシングものして勝負してる時にそんなことするんだよー、邪魔!」
ひょいっと家康の擦りつける二の腕をお預け!とでもいうように体の中心へと逃がす綱吉。家康は不満そうにちっと舌打ちすると薄い皮膚の尖った鼻先を上向け、顔の半分を覆う金糸の隙間から綱吉をじっとりと見つめた。
「やだ。ツナとくっつきたい!!」
「いいから聞け!!そこの二人!!」
「やだ」
「知るか。貴様の言葉なんぞ耳が腐るわ下衆が」
ぷーんと二人とも拗ねたように骸の言葉に耳を貸さない。テレビ画面でガーガーウーウーひゅうひゅう音が迸りカーブに合わせて綱吉は体を傾けたりしていた。家康も続く。懲りずにぺったり頬を綱吉の横腹にくっつけた。骸はダンッ!と叩く。だが無視だ。テレビゲームに夢中(?)になる子供を持つ母親の気分というものに共感してしまいそうだ…。いかん。骸はぐりぐり拳を擦り付けながら熟考する。わかっていたことだと思いながら。どうしてもたったひとつだけぽつりと呟きが零れてしまう。
「……なんで貴方達は一緒に居るんですかね?諦めるか逃げるかしてくださいよ」
額を片手で覆いながらそろりと二人の背中を見比べる骸。薄く開いた唇から諦念のような吐息を逃した。













以上サンプルでした!