Wilder than blue heaven
-番外編1-












骸はどうでもいいと言った。ぎりぎりと人間の顔を踏み潰しながら、冷たい凍えた目で、 ……いいや、そんな目じゃなかった、それは幻覚だ、綱吉が望んだせめてもの色彩。 骸の目はただの空洞だったのだ。まっくらな穴。綱吉が 目を開きそれを食い入るように見つめているなどとはまったく知らないのだろう彼は、 だからその顔に嘲りの笑みが猫被りのように行儀よくものってなんかいなくって、 真っ暗な無表情さで…、そうか、 本当にこれが彼の素なんだろうなあと綱吉は寂しかった。哀しい。 骸の馬鹿。すぅっと綱吉は冷たい地べたに頬を押し当てながら瞳を閉じた。 瞼の裏は暗いというよりも赤くチカチカとして、ドクドクと血液がのぼっていく音がする。 骸の阿呆。言おうとしたら口の端が痛んだ。意識は手離されようとしている。 綱吉は骸の苦悩をなんとなく理解しつつもやはり蓋をしておくことにした。彼も望まない。 だから、……意識なんかも一緒にパッと暗闇に捨てた。





いてて、と口の端に走った痛みに呻きながらそれでも綱吉は眼の前のことに没頭した。背中にずしっと 力一杯に圧し掛かってきてる背中もあるがそれでも!それでも綱吉は何としても此処は今日中に攻略したくって 意地でもやっている。

「………そこ、右」
「右いったらさっきと同じだろうが!?」

ぱらりぱらりと綱吉の部屋にある漫画を流し読みしながらテレビ画面も見ずに骸がのんびりと言い放った。それに 綱吉はくわっと牙を剥きながら必死にコントローラーをカチャカチャと忙しなく動かしている。 RPGのダンジョン攻略はもっとも苦手とするもので骸の賢しい頭脳を頂戴しちゃったりするのだが!その先生さまは 大変ご機嫌ナナメらしい…。まあ、ご機嫌大向上中☆の時の方がよっぽど恐ろしいもので…、まあ、そこらへんは 綱吉は微妙な複雑な心境を織り交ぜおりまぜつつ、藪をつついてへ大蛇でちゃったよー!!みたいなことわざだったかなんかに のっとって放っておくこととした。ギシギシと背骨を軋ませる所業くらいかわいいもんですよまったくね。

(どうせね、こいつの機嫌の悪いもとなんか分かってるしな)

…うごっ!更にギッシギッシとかまってよおかあさーん!みたいな風に(そんなかわいいたまじゃあねえがな!!!) 更に更につよーく背中に重圧が寄せられてくる。体育の柔軟体操でベキベキビシー!と体が軋むほどに固い 体の綱吉には少々…、少々というか、けっこう?…ああ、ちょっとピシピシと体が痛くって仕方なくなってきたくらいに 辛くなってきた。でも無言を。前のめりになりつつアゴを突き出して首をなんとか伸ばしてテレビ画面に食い入る。そこに骸の頭が後頭部に ゴツッ、とあたってきた。てめ。

「………骸」

ムカつかせているのはわざとだ。どうしてなのかなんて理由ぐらい分かっているから無言、…でもどうにももう鬱陶しくなってきた。いたい。 今回はうざい!!もっと盛大なものがあったがしかしこれはどうにも…、こう、プスプスとほぼ消し炭みたいなんだけどまだアレー?なカンジの…、 こう、些細すぎてかえって気になるという…微妙な大きな精神攻撃的である。 ……そこらへんラインなことしちゃう理由もわかる!

(俺が骸を恐れたからだ。)
「そんなに暇なら、な」

綱吉としては無意識だった。あの時、ぱかっと目を開けば未だに高校生たちに引っ張り込まれた暗い路地裏で 空は赤かった。そして、いきなりピタっと頬にあてられた布に電撃が走ったかのように躯が震え、夕暮れゆえの 逆光のまっくろ人物にぱっかりと目を見開いてしまったのだ。ぬっと現れた暗闇。骸だと気付いた、でも、骸だと思ったら思わず サッと顔が青ざめ拒絶してしまった。まずい、そう思っても躯は激痛に呻く。うごかない。まずい。骸の目。 後ろ頭あたりでチカチカと赤色が明滅した。ニコリとわらう。とりけせなかった…。 骸は何にも気付かぬ顔で綱吉の顔の泥を拭い悪態をついた。でも、…。

「てい!」

さっと綱吉は躯を横にした。ふっと間があいた次の瞬間に骸がどさっとあぐらをかいた綱吉の左膝の上に背中から倒れこんできた。 骸は無表情だ。パラリと綺麗に梳かれ整えられた前髪が額の上にちる。綺麗な額である、その上にそっとコントローラをのせて 綱吉はひややかな眼差しでくいっと顎をテレビ画面の方へしゃくった。 つづき。その一言をまたぶっきらぼうに呟いていつまでも膝の上に背中を預ける骸の体をどたっと膝から転がり落とした。 そこをすかさず!骸の背中にダイブするようにのしかかり、つづきーとまたつぶやく。ぺたっと背中に顔を埋める。 おまえ枕な。目が疲れたし頭もつかれたんだと綱吉は寝転がる骸の背中でつぶやく。

「……おもいですよ」
「お前の責任もおもい」

どうでもいいと骸はいった。
…それは多分すべてのことを示している。同時に理想と現実の狭間を行き来してもいる言葉だ。
でも骸は綱吉がたのむこと甘えることなら割と丁寧にことを仕上げてくれるのだ。初孫もったジジイのように。













 アトガキ
よわった動物はあまえてくるそうだ。
2007/01/10