Wilder than blue heaven
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俺は一体なにがしたいんだろうなあなんて言葉がぽろんと綱吉の口から零れ落ちてしまったが、まあ、 部屋にいたのは聞かれてもまずい相手じゃなかったし、というかどうでもよろしい人物なのでそのまま、 どうでもいいかとまでぽいっと口から投げた。ああ、本当にどうでもいいやあという気持ちがぐるぐると 胸の中で渦巻いてくる。なにがしたいのかなーとか思うと途端に面倒くさがりの性質がむくりと起き上がるから いけない。惰性だなコレ。現在の状況に順応なのかもな。あっはっは!万歳か!『お手上げ』か!

「……その内、太陽にバカヤローとかいうんですかね」

はあ。パタンと本を閉じて呆れ顔が綱吉を振り向いた。優雅に革張りのソファーに腰を下ろしてる美形なひと。 彼は窓枠に腰掛けてぶらぶらと足を揺らしている複雑そうな顔をした幼なじみの顔をじーっと見ると、 馬鹿じゃないのかこいつ、みたいなような心情を女子たちに大人気の丁寧な線の細い美麗顔の上にじわっと広げた。

「言うかよ馬鹿」
「ならさっさと諦めてしまうがいい」
「だーけーどーさー!!」
「いいじゃないですか、どうせ居ても居なくても綱吉はもとから悪評だらけ」
「………お前にだけには言われたくねーーー」
「頭がいいのでアナタよりマシですよ」

にっこりと花が綻ぶような上品な笑顔がまたカチンとくる! 綱吉はこいつ殺してぇーというギリギリ歯軋りも混ざりそうな険悪な顔でもって殺意あふれる眼差しを 眉目秀麗なる骸に向けた。確かに学力なんて天と地の差もありにありまくる上にしかも 頭がキレるのだこいつは!『勉強が出来る』という頭の良さなんかじゃない、本当に 『頭脳の質が上等高品質!!』とかゆう人間でありまして、顔も滅多に見ない丁寧な造りだし 体にしたってかなり丈夫で頑丈で姿形ヨシとかゆう……、でも、人間として最悪な部類だと 綱吉は幼少の頃より痛感しているのだ。最悪だ!最悪だ!変態だ!年がら年中叫んでるよ。 そーんな奴に『悪評』とか言葉を突きつけられたらそりゃ綱吉はキレそうになります。 他の連中…、ギリで千種とかなら、まあ、いいのですけれども、よりによって『骸』というのは かなり手酷く手痛いじゃあないか! 人間としてはノーマルで平々凡々…の、底辺あたりをのたくたと好き勝手歩いてる モノですからとと自負している綱吉にとっては、この骸の言いようははっきりいって心外だ。 精神攻撃だ!……けれども綱吉という人間はこの骸という人間以下との付き合いが長いゆえに、 こんな発言はいっときだけの『憎悪』に留まる。次の瞬間にはいつもの『どうでもいい。めんどい。』 でさらっと流して会話を切り替えるのだ。

「………なぁんで、おれ、俺なんかが風紀委員長やらにゃなんだかなぁ」
「それは僕が生徒会長ですから。あなた暇でしょ?」
「暇だけどさ、でもなにも俺にしなくてもいいじゃんか。犬とかさ」
「書記ですよ」
「会議中寝てんじゃん!」
「僕は記憶力いいので大丈夫ですよ(※必要ないんです書記の役割なんか。犬は使いっ走りなんです)」

にっこりと聖人君子の笑みでありながらぺろっと闇色の舌がのびた。まあそうね、そんな風にそっぽ向いて 呆れ顔の綱吉も少し暗い色が腹に宿ってるかもしれない。綱吉は目を閉じ、ごめん犬!と一応謝った。 すごく納得したんだ!!…とかまで念じてしまっているからなので、反省の色はあまりない罪悪感のようだ。
そして目を開けぱちくりさせるとまた綱吉はなんでおれが?という問いを口にした。トン、と窓枠から降りて、 今度はでっかいごっつい社長室の机みたいな(見たこと無いけど)生徒会長さまのお席にトスンと腰を下ろした。 うん、やっぱり座り心地がいいなあと少しだけジンとして、綱吉はギシリと椅子を回した。

「何度もいいますけど、綱吉だから適材ですよ、だって」
「”生徒会長を警護する役目を担う”からとかいうんだろう」
「そう。えらいえらい」

骸はわからない。グルリと椅子を一周させてみながら改めて不思議なその思惑に溜息がもれ出た。 彼はもう読書に戻った。綱吉もどれだけ食い下がったところで骸が決して撤回しないだろうことは よく解っている。けれどもなんでなんでと聞かずにおれないのだ。なんで俺? 骸は適材としかいわない。なんでお前を守るの?骸が誰よりも強いことは綱吉はよく知っているし、 それに骸だって綱吉が弱いことくらい承知している。 誰が毎度ちいさい頃から何かとトラブルを引き起こす自分を救ったというのか、それらを まさか覚えていないわけがあない。

(なんなんだろ…?)

コテンと背もたれに体を預けると、ふわっと鼻腔を骸の髪の匂いが香った。 シャンプーの匂いだろう。骸の家に泊まった翌日はふたりして同じシャンプーの匂いだから、 兄弟ってこんなかんじなのかなあと少ししみじみした。綱吉は一人っ子だから。 そっか、と。ランチア兄さんに甘えた。

「寝るな」
「うん、寝てない」

なんでだろう。骸は時折複雑そうな笑みで自分を見るのだ。























 アトガキ
まあこんなのもよろしいかと……(そうかい)
2006/05/27