「貴方はひとの目を見るという事をしない方ですね」

バサリと重厚な色のカーテンが風に大きくたなびいた。さらさら流れる青みがかった髪は青年の眼差しへ額の前に細く散りばめられたが少しも彼の真摯さは陰りを帯びることはなかった。時刻は正午過ぎ、光と影がじりじりと対峙するように交差する部屋の中では増したのかもしれない、青年は乱れた髪をスッと片手で後ろに追いやり、その両目を顕にした。うっすらと蒼くさえ見える白磁の肌が揺れるカーテンの陰で更なる静謐さを得、柔らかく憐れむような眼差しは更なるひたむきさを秘めて真っ直ぐに部屋の主へと向けられた。信じられない程に薄いような皮膚と麗しい造形。幼い頃より育てた青年。鼻筋が特に美しいのだろうと男は思っている。

「………そうか」

青年はニコリと。丁寧に憂鬱よりも綺麗な音色の微笑で目の前に座る男の返答を受け取った。彼はやはり無関心であり相変わらず何処か遠くを眺めてぼんやりと退屈そうに頬杖をついたままであるのだ。

「こうして近くで話しても、貴方は見向きもしない」
「ああ、」

聞いてはいるよ。顔を向けずに淡々と呟いた。大きく開いた窓からまたふわりと風が入り込み、男の髪を揺らしていった。だが瞳は揺るぎもしない、ひとつの完成した形のように彼は変わらない。美しい衣のように孤独を纏い固く全てを拒絶するかのような威圧感がいつだって黙り込んだ彼からは発せられる。ぽつんと玉座ひとつだけを持って、それに座って、……それさえも本当は邪魔なように、ひとり。黙る。たったひとりでいい、誰も要らないというように。青年は眉を寄せて微苦笑するとスッと男の元へと近付いた。恭しく膝をつき、男の膝にそっと手を置き、子供のように小さく首を傾げて男の顔を覗き込む。透明な石で出来たようなまるい瞳は大空を映しているように清く澄み渡り、…けれども虚ろな印象がどうしても拭い去れない綺麗な瞳。どこを見ているの、ちいさな頃に不安で聞いた時になど彼はよく『そら』と答えてくれた。……だが、今では。さあ何と答えるか。何を見ているのかと訊ねたらどんな綺麗な嘘を吐いてくれるのか。



「…お前が俺の目を見ればいいんだ。どうせ俺の吐き出す言葉なんて嘘と如何でもいい事実ばかりで、……いっそのことお前で決めてしまったっていいんだよ」



意味なんて無い、ただひとつも。そう呟くと男はすっと瞼を落とした。
真実を求めるなと残酷を吐いたまま。






(終)











 アトガキ
8月29日に某所に投下したもの。無気力な初代さま。まるなげ。多分ねむい。(おい) きっと玉座より寝台が欲しい!(ええ)
2007/12/16