泣いたら負けよ






いきなりぼたぼたと涙を零した古泉を見てキョンはヒッと夜の通りで人食いバケモノに出会ったような短い悲鳴をあげた。 ひどいと思う。
古泉はきちんと自分の涙腺が壊れたのだと自覚していた。自覚したら理性はちゃんと立ち上がる。
……けれども涙が止まらないのだ。涙腺が壊れた。壊れたものはどうすれば治るのだろうか…。悩む。こんな事は 一度だって無かったのに。目の前にいるキョンはぶるぶると震えて恐慌状態、それを見てああ可哀想だなあと思って古泉は 心の底から本当に申し訳なくなく…。だって本当にわからないのだから。

「お、おまえどうしたんだよ古泉ー!!俺か!?俺が泣かしてるのか!!」
「いえ、違う…かと、…ええ、多分?」
「多分!!さっきまで居た閉鎖空間で変なもん貰ってきたんじゃあないのかよ!!」
「…………」

やっぱり止まらない…。ボロボロぼたぼたと、取り出したハンカチ一枚ではとても足りなさそうだ。 泣きながら古泉は冷静である。何かのスイッチを押して流れているように涙は他人事のように流れ続けている。 対して当事者でもない癖にキョンのが大騒ぎなのだから、 傍から見たらもしかしてキョンの代わりに古泉が泣いているようにも見えるかもしれないという場面で…。 (それを知れば彼は苦虫を何十個も噛み潰した顔をしてキモイと叫ぶことだろう。)

「やっぱり疲れてるんだろお前!」
(あ、)

ポン。わかった。瞬時にボッと火が噴く勢いで古泉の顔が真っ赤に染まったまさしく茹蛸状態だ。 首筋の真っ白な肌さえじわじわと赤い。両耳は赤を通り越して黒くなるんじゃあなかろうか…。 いつもならばしたり顔と共にきっちりとしたオーバーアクションを起こす手や腕が今ではわたわたと 意味不明に動き出してしまい、その奇行には奇行に慣れきったキョンさえも唖然とさせた。 彼は突然のことにすっかりと頭の中から動揺をスコンと抜いてしまう。呆然。呆気。 ボロボロ涙を零して赤面して慌てて手足を振る目の前の超能力者。おまけに美人。笑顔怪人。 あれーと、キョンは冷静さを取り戻す。…でも、こういう古泉もまあ人間らしくて…、大幅に常人を逸した行動であることに 目を瞑るとして、そう!これは感情を露わにしているという真に感激するべきことで…! とかなんとか言い訳(ゴマ化)してみる自分に。

「お、おい…、古泉?落ち着けって!」
「きょ、キョンくん!!あなたのせいですよ!!?」
「何故だ!!」

やっぱり疲れてるんだろうがお前は!!
その妄想の多く詰まった頭をガッと掴んでそこらの壁でガンガン叩きたい(※壊れたテレビの修理法)欲求を抑えながら、 とりあえずキョンはコメカミあたりに青筋を立てたまま古泉の胸倉を掴むとズルズルと引き摺った。 まずはトイレだ。顔を洗えお前。

「だって!!『お疲れさま』なんていうんですからーー!!」
「完璧俺のせいじゃねえじゃねえか!!そんな言葉には笑顔で『ただいま』とかいっとけ!!」

泣くな!!うぜえ!!
そういうキョンの耳の端も赤く、古泉は新たに子供のようにぶわっと涙を溢れ出させた。









2007/08/19