おさない激情
「サクラちゃんがすき…、」 だってばよと。いつもの口調が飛び出す前は確かに本当にとても不思議な透明さがナルトの濁りない瞳の中に 深く浸透していたのだ。まるで消極を極めた湖面のような静謐さ。 今ではニシシとわらっていたずらっこないつもの顔なのだけれども、…サクラはやれやれと笑ってしまう。 あれは12歳という少年が持つにはとても奇妙な真摯さで、また、せつなさだろう。 バカね。ほんとうに…、ナルトにやさしくしたくなる。 「あ、そう」 しらないふり、しらないふり。 ナルトがサクラの幸せを心から願っているなんてことは当たり前。サクラをいじめるヤツがいたら、それこそ ナルトは全力でサクラを身体いっぱいに守るだろう。サクラが中心。サクラがわらってくれれば、ナルトも 途端に幸せになる。それくらいにナルトにとってサクラは特別なのだ。とっても特別な女の子。 「ちぇ、サクラちゃんつめたいのー!おれってばマジメに告ってるってのによぉ…」 「あんたの真面目さなんて当てにならないじゃないの。 そんなへらへら笑って言われたってちっとも真面目に受け取れないわね」 「男はアイキョウだってばよ!」 「うるさいバカナルト」 ふん、と顔を横向けるサクラにナルトはうっと声を詰まらせる。ついで情けない声で彼女の名を呼ぶのだ。 それがいつものナルト。そしてサクラ。それがいつもの二人。速足のサクラの背をナルトが追って、ナルトはおずおずと サクラの隣に並ぶ。サクラはナルトの視線に答えずまっすぐに前を。前をむいていく。 さらりと桜色の髪がうしろに流れた。きれい。 つよい横顔。 「…………」 ナルトにとってサクラは幸せの象徴。泣いて泣いて嘆いて叫んで寂しくてたまらなかったのに、 それでも絶対に手に入れられなかったもの全部をもっている。 綺麗なおんなのこ。 綺麗な両目でナルトをまっすぐに見つめてくれた。 (なんてきれいな、やさしい、たいせつ。…うしないたくないひと。) ナルトはその凛とした横顔を眺めるのが好きだ。 すき。 すき、だから。 「…もう、怒ってないから。その情けない顔でこっち見てないでよ」 バカね。サクラはふっと目元を優しく緩ませナルトの方に顔を向ける。バカナルト。 (あんたが私のことがどれくらい特別に好きかなんて知ってるわよ。私は自力で幸せになれる女なんだから、 あんたの過保護なんかいらないのよ。) 「サクラちゃ〜ん!!もう、ほんとうに大好きだってばよ!!」 「はいはい」 恋を知ればいいのに。サクラはいつもその言葉をそっと胸に潜める。 |