さみしがりはだれだ







ナルトは今日もサクラちゃんがどうだとか可愛いとか可愛いくてやっぱり優しいってばとかとにかく 誉めちぎる。惚気のようだ。まったく一方通行なアレだが。それを聞き流しながらサスケは忍術書に 早々に頭をぐちゃぐちゃにされた(のでサクラ語りをし始めた)ナルトの為に茶を用意しにいった。 ……うんざりだ。だが反論すれば更にうざったいので、こうして席を立った方が利口なのだと学習した。 ナルトは不満気に聞けってばよとかいったが、 サスケが茶菓子も一緒に持ってかえってくるとコロっと顔をほころばせた。ちょろい。

(本当に…、なんだってこんなサクラ至上主義なんだか…。)

わからん。サスケは自分の分の茶をすすりながら、やはり食う気になれなかった自分の分のまんじゅうをナルト の方へとよせた。わからん。こんな甘いものを美味そうに食うナルトの気も。 ナルトが家にいることに違和感を感じない自分もまた。わからん、休日とは以前どうやって過ごしていたんだか。 サスケの目が天井へと泳いでいく。この家はこんなに明るかったのだろうかなんて…。 ああ、これは感傷だろうか。誰かいるから。だれか。 ナルトもひとりきりの子供だ。ひとりぼっちの家に違和感なんて抱かず溶け込めるのか。だから、 こんな家に遠慮なんてしないし、ましてサスケに遠慮なんてまったくしない。冷蔵庫を勝手にあける。

「……お前は、かるくヤバいな…」
「は?」

ぽつりと。思わず零れた独り言はナルトの耳に届いてしまっていた。まるい瞳をきょろりと動かして、じっと サスケを不思議そうに見つめている。サスケはそこで、この独り言が口から零れていたことに気付き、ギクリと固まる。 ナルトの瞳。透明度がうんと高くて、底が見えないような澄んだ泉のようで、 一度見つめてしまえばぐんぐんと引き寄せられてしまうのだ。おそろしい。 ナルトはそんな威力を持ってるだなんて知らない。 それなのに物を知らないまっさらな子供のようにいつだって真っ直ぐにひとの目を見つめてくるのだから。

「…やばいって……、まあ、おれも自覚してるってばよ?サクラちゃんのこと好き過ぎるってさあ…」
「………………」

そっちいったか。一ミリも表情を変えずにサスケは密かに胸の内で安堵の息を吐く。 無表情が定着した顔とは、こういうときにとてもいいものだなと。 そして、自覚あったのかと少し新鮮な驚きと共に。
確かに、それもやばい。ストーカーというものではないだろうが、しかしサクラへの感情は度を越していることは確かだし、 そっと二人の様子を伺えば、……サクラはそれを認識しているようでもあった。ナルトの思い。それは特別なものだと。 彼女はそっと慎重に扱っているように刹那だけだがそう、ふっとみえた。

「でも…、おれってば、………本当にさあ、サクラちゃんには幸せになって欲しいなあってとかさ」
「…………」
「すきだから。大好きだから」
「…………」
「そんでさそんでさぁ〜、サクラちゃんってばお前が好きなんだよなぁー!」
「しらん」

きた。きたきた。ガッと、ちゃぶ台を飛び越えて胸倉を掴んできたナルトにぐったりと脱力しながら、 サスケは遠くを眺めた。いやに平和な風景が縁側の向こうに広がっている。だるい昼下がりだ。 ナルトのぎゃんぎゃんと喚く口も最早日常のひとつだ。サクラ語りあればサスケに暴挙あり。 まったくひどい話だ。がくがくと揺さぶってくるナルトに辟易しながらサスケはだらだらと嵐が通り過ぎるのを待った。

「おまえなんかちょっとばかし顔がいいだけじゃんかよぉ!」
「へいへい」
「そんでさそんでさ!ほ、ほんのちょぉ〜〜っとばかしおれより力があるだけじゃんか!それなのに不公平だったばよ!!」
「そうだな、ほんのちょっとの差だなウスラトンカチ」

サスケはだらだらとやる気なく、だらだらと肯定していってやる。だらだらとナルトの癇癪に付き合ってやる思う存分。
すると。ぴたりナルトの手はとまり、ついで大きな溜息がはかれた。よわよわしく胸倉から外されていく両手が、 するりとサスケの両肩へと置かれる。そこでサスケはちらりとナルトへと視線を投げた。 こまった。そう述べた顔が、苦くわらいながら、眉をやわらかくひそめながら、サスケを見つめる。こまったなあ。

「サクラちゃんはお前の顔とかスカした態度が好きなんだろうけど、きっと、お前のかなしみも好きになるんだろうなあ……」
「……………」
「お前ってさ、いやな奴だけど、……悪い奴じゃないんだってばよ。なんというか考えがせまい…?周りを見てない…? ああ、祭りの後の寂しさが嫌いっていう感じが近いのか、…」

おれもきらいだってばよ、それは。ひっそりと呟きながらナルトはサスケの両肩に手をおいたまま、 そっと頭を垂れさせ額をサスケの鎖骨あたりによせた。

「お前は、誰も必要としないとかいう。 一度でも心を許せばそいつのことにとことんあまい奴だから。それをわかってる。 ずるいってばよ。なんでお前はサクラちゃんを懐に呼ばなくって、さみしがりなおれをえらんだり」
「……………」

つながりが、ぶつりと途切れた音。
サスケの世界を支配する。
(誰かがいった。アレさえなければ、まっすぐに育つ筈であったと。)

「………お前は、つらくない」
「わかんねえってば」
「俺もだ」

何故だろう。サスケだって何度も頭の中で幾度も考えをめぐらした。サクラにやさしくしたいとは思わない。 ナルトの気配を知りたいと思う。懐に抱えたいのはナルトだけ。それだけ。

「……誰もいらねえんだよ、俺は」

ナルトはきっと泣かない。いつの日にか居なくなる自分を思い出しても。






2007/04/01