暗闇の底より
昔のことを思い起こせば思い起こす度にそれは今よりほんの少しは幸せな時代だったのだろうと思うこともあった。 欲しいものを手にした後を生きているというのに。まったく酷い話だ。この結果を嘲笑うのか。 (まあ、そうだろうなあ…) 目裏にさあっと浮かび上がる笑顔と絶望の眼差し。 手の届くことのない月のような記憶はいつだって此のひとつ前の瞬間に起こったのではないかと思われる程に鮮明過ぎる。 ジリジリと焦燥が。奇妙なせつなさが胸を焦す、それはあいつが好きだったという事実が確かにあるから。 「……いいや、今もなお」 いつだって思い出は美化される。 |