「ツナ!やあーっときたー」
ヒュン!とナイフが飛んだ。顔の横に来た瞬間じゅうっと溶け落ちる。びしゃりと蕩けた刃に炎が噛み付いて唸っている。
「あぶない」
「あぶなくないよ」
ベル、とたしなめる声は固く感情はない。視線だけで敵の残存はと問う。あたりはびしゃりと真っ赤に濡れているか綱吉の炎によって影のみを残し消え去っているかだ。一言で言えばひとの命は二人以外にはなかった。
「ないんじゃない?だって他はムクロが担当だし、逃さないっしょ?」
「………」
パサリ、僅かに羽織った外套が揺れた。ニシシとベルが嗤う。 それは少年には重苦しくかつ彼の身体をすっぽりと覆い隠す代物だが。知っている。誰もがそれは少年の重荷ではないと。 細い腕をさっと持ち上げ、綱吉は長い裾を翻らせるとベルに背を向けてさっさと歩き出していた。骸は面倒くさいから。そう呟いて殺戮の現場から立ち去る。それにベルも軽い調子の足音で続いた。ツナヨシーと呑気な声をあげて、ご飯食べようよーとじゃれつきながら。
「ダメ。これからザンザスに報告するから」
「ええー明日でいいじゃん?」
「ダメ。怖いから」
「…………ちぇー」
残念そうなベルの声に綱吉はちいさく嘆息する。と、共にシュッと身に纏う炎が消失し、パチリと瞬き。すると綱吉の瞳が色の深い琥珀へと移り変わり感情がパッと灯った。…途端に盛大に肩を落としてしまう。ベル…。こちらも慣れた口調を使いくるりと振り返るのだ。
「あーとーで!すぐに報告して戻ってくるから!そんな拗ねてナイフ投げてくんなよ?!」
「……ちっ」
「なにその舌打ち!!」
今すぐにでもナイフを投げつけようとした格好だったベル。超直感ありがとうと綱吉はどこか遠い目になりながら思った。 ったく…。またしても溜息を吐き散らかしてガリガリと頭を掻き毟ってあーあーあー!と喚く。ベル!と力強く呼ぶとぐいっと彼の手を掴んで無理矢理自分の手といいように繋がせて強く握った。補導だ補導。ぐいぐいぐいと引っ張って綱吉は歩き出した。そのたびにバサバサと鳴る外套。とっ、とっ、と少しだけよろけて歩き出したベルのきょとんとした目がにまりと細まっていく。
「恋人みたいだね?」
「アホか」
「王子に対して失礼じゃね?」
「馬鹿王子が」
「天才だって」
アホでバカだ。綱吉はめいっぱいに呆れを含んだ声で強くいってやった。ベルはにこにこと天才だよーと言い返してくる。 王子だからねと付け加えてもきた。けれども反論のナイフは来ない。 ベルはこうしてやった方が大人しいことを知っててやる綱吉。こういうのが嬉しい馬鹿王子。
「今日の飯はお子様ランチだな」
びしゃ、びしゃ、とうっかり血溜りを踏んでしまったが二人は気にせず手を繋いで帰る。




2008/04/13