『愛の言の葉十題』   title by "capriccio"


01. 食べちゃいたい
                ぎゃあああぁぁぁーーーー!!!(※骸)

02. グラジオラス
              アホ吉くんと秘書ムック(属性:けっこう辛辣?)

03. 俺に一生を捧げろよ
                   ………え?

04. 捕まえてて?
               『にげないで。』

05. わらってください
                ロクな特技がない。

06. 殺されるなら、是非、貴方に
                         ふれたいふれたいふれたい…。(今世紀最大のブサイクだけど。)

07. 怒っても笑っても泣いても、
                         『わらってください』 綱吉サイド。しょうがないんだ。

08. 嫌いじゃない
              認めれば楽になりますよ?

09. どこまでも深く深くふかく、君に狂う
                                ちゅー。

10. ずっと傍に居るよ
                  やさしいひとをあいしました。


2008/05/06 〜 05/15





























































01. 食べちゃいたい

れろりと瞼の上あたりを舐められたのだと気付いたのは意外なことにその行為を為されてからたっぷり5分くらい経ってからだったのだろう。れ、と舌がついた瞬間にはもうコキンとかたまっていた。ぱっちりと開いた視界の中にはぼやけた眼の綱吉。骸の口は半開きのままで…、ああ、なんだったんだろうかとそろそろと右手を持ち上げて舐められただろう右瞼にふれた…。ひっ!?触れた指先から一気にザッと冷えていく。しめってるのだ、しかも綱吉の口はぱかっと開いたままで赫い舌がふてぶてしくなまめかしくその中に堂々とあり…、骸の顔すぐ近く、眼下で、ぴくりと動いた。すっと、綱吉の顔もまた近付いてきて情けないことに骸はぎゃーと叫んで彼の顔をパシッと止めた。
「…んぁ?」
「んあじゃないですよ!!?き、き、きみ!?さわだつなよし!!お前はなにをしようとしていたんだ!!!」
ガクガクと骸は肩やら頭やら腕を極度の緊張に支配されたように固く震わせて必死に言い募った。なにをした!!蒼い目にうっすらと涙がうかぶ。赫い目を覆った白い手が赤く染まっている。わなわなと情けなく取り乱した姿が滑稽だ。ひーひーとわめく骸を綱吉はぼんやりと見つめている。ぼんやり、ぼんやり…、自分の顔を覆う手の冷たさにじりじりとした熱を感じた。
「…いちごあじの、あめ…が、…」
「はあぁ!!?」
「あめだまって宝石みたいだ…」
「はあああーー!!?きみねてるでしょう!??」
カッ!!と骸の頭とか頬とか首筋あたりに真っ赤な熱が灯った。特に綱吉の顔をおさえて手がもえるようだ。彼の方があたたかいのにそのはずではないのか自分の体温は低くて…ああ、それでなんだったか…、骸はぐっと唇を噛み締めてすぐにガウッと吠えるように彼を一言罵った。
「死ね!!!」
途端。ずるっと力が抜けて落ちた綱吉は骸の膝でくぅくぅ安眠についた。昨日も今日も寝てなかったのだったから仕方がない。
































02. グラジオラス

白蘭さんからお花がとどきました。朝一番に届いた花一輪をその手にして綱吉はぶらぶらとのんびりふってそれを白蘭嫌いな骸に見せ付けた、ら……………、ええーと思わず不満の声が出てきそうなほどにその時の骸の笑顔といったらつまらないほどにいつもの完璧に整った笑顔だった。つまらない男だなあと綱吉は思ったが、ま、いいかとその花の顔を骸から自分の方へと向けてまじまじとみつめてみた。…うん、花は綺麗だな。綱吉はほんの少し薄く微笑んだ。
「金魚草って、どんな花言葉あったっけ?」
「………………………」
ぴーひょろろろーーと何処か遠くから鳥の声が聞こえてきた。綱吉は花に向けてニコッとわらった。骸も無言でふふっと笑っている。窓の外の青さも天気も木々の元気の良さも完璧である昼下がりなのに骸の周囲の温度だけがぐんと下がっているのを綱吉は気付かない。……骸が、その綱吉の言葉にこそにすばらしく麗しい氷のような満面な笑みを披露しているのに、生憎と花ばかり見ている綱吉にそんな恐ろしい雰囲気に気付けるはずもなく…。骸はニコニコ笑いながら相変わらずその花をくるくるっとまわしたりして弄び……、顔は笑っているくせに実はそれに対してなにひとつとして興味の浮かばない眼のまんまの綱吉を見つめた。
はあ、と溜息が骸の口から漏れ出た。まあ、これでこそ綱吉だ。金魚草を知っていたことの方が驚きに近い。……ああ、そうだろうな。そうでしょうねえこの阿呆は!!骸はさっと表情から笑顔をひっこめて僅かに遠い眼をしながらそういうものだろうと呆れを通り越してくらくらする頭をおさえて諦めるのだ。はあ…。所詮は彼は庶民であり知識とか教養とかそういうもんなんかまったく蓄えちゃあいないし頭にこめた端からばらばら零してる確かさがある。勿論高尚さだって皆無。この花の本当の名前も花言葉も込められた意味なにもかもをわかっちゃあいない。愚鈍。それが綱吉。骸は脳内でうんうんと納得した。
「僕はその花に憐れみを向けるべきか、それとも君にか、もしくは白蘭にか迷うところですね」
「じゃあ、俺でいいよ」
































03. 俺に一生を捧げろよ

「プロポーズでいわれたい言葉は?」
「ひょっとして僕が言われる方なんですか?」










































04. 捕まえてて?


「多分、俺のが逃げてるんだ…」
意外に。
泣きそうな声で言われてしまったので骸の方が吃驚して涙がぼろっと零れそうになった。慌ててそれを目頭を押さえて止めてみるが、しかしどうしても心臓がドクドクと暴走してちっとも衝動は止みそうにない。ひどくうろたえてしまう、なんだこれは。これは…。威圧的なまでに影響力に優れた声であり骸の胸の奥を猛然と突き刺してくる。思わず、ぎゅっと手で胸を押さえてしまう醜態をさらさせるくらい、敗北感をどんどんいっぱい積み込まされるのだ。弱音を吐いたのは綱吉だ。骸はなにも吐き出してなどいない。それなのに骸こそが彼に胸の奥のものを全部ひっくり返して広げてしまった気分になるのは一体…。ひどい、ひどい錯覚だ。ひどい、ひどい男だ。今回だけの記憶しか持ってないくせに、六度目の人生を生きる骸を容易く突き刺すのだから本当にこんなのの傍にいるのはゴメンだ。
そうだ…、いっそその言葉通りに綱吉こそがここから逃げてくれればいい。そうすれば骸は元に戻る。息をつけるだろう。 ようやく…。
「でも、お前は離さないから。俺もお前が好きだから…」
逃げれない。そう言った彼の手がのびてそっと骸の手を握った。
なんだ。それは。
(捕まえているのは君じゃないか)
けれども握り返したのは骸。捕まえていてほしくもあった気持ちなど棚上げる。
































05. わらってください


「…つ、綱吉?…ぁ、あの、…つな、よし…くん?」

「……………」
無言。綱吉は誰もが聞いたことのない骸の弱気な声をすっかりスルーした。そして、トントンと机を苛立たしげに叩く綱吉の人差し指のたてる音が静かな室内に響いている。
(どうすればいい…?)
「僕は、どうすれば…」
カタカタと舌がもつれるようだ。
骸の頭の中ではいかに綱吉にどう取り成せばいいのかと思考は目まぐるしく巡り、目などおろおろと綱吉の機嫌を伺っている。
骸はただ自分の言葉によって綱吉が怒るか嘆くか悲しむか、…または呆れるか。その反応さえあればいいのに綱吉は沈黙し苛立っている。恫喝のようだ。赦されないと。唸られ、あきられ、愛想をつかされたとはっきり解った。
ただ、さっきは本当に、ただ、本当に。疲れているようだからボンゴレなど壊滅させましょうかと言っただけなのだ。
(冗談、ですよ…。君がボンゴレを大事にしていることくらい解っている)
綱吉は表情を変えることもなく、そう、とただ一言しか返さなかった。いつもなら目を見開いて慌てるか、または過ぎたやんちゃに呆れた笑顔なのに。ひょいっと書類から顔をあげた綱吉は骸を見つめ、骸をまったく見ないで、無感動に頷いた。感情のこもらない声と目がおそろしかった。
(……本気で、怒らせたのか僕は)
どうしよう、どうしよう、…骸は途方にくれる。背中をぞわっと冷や汗がすべっていく。耳鳴りのような頭痛がぐわんぐわんと響き骸は眉間に深い皺をよせ苦渋の刻まれた顔で俯いた。どうすれば。
君は。

(わらって、くれるんですか…?)

出来るのは人殺しと人を陥れることで特技は君の不安を募らせることだ。
































06. 殺されるなら、是非、貴方に

彼が泣き喚くので。
おこられるかなと思いながらそっと骸は綱吉に触れてみた。泣きながら怒って悲しむ彼の横顔はまるで出会ったばかりの頃の彼そのもののようでそしてなんだかすごく尊いものにも見えて触れることに大変な躊躇いが生まれた。けれども。骸は口許にふっとちいさく笑みを刷いた。ああ、だって…。心の何処かが触れろと命令するものだから。よろよろと手を伸ばして溢れる躊躇いを押し殺す。…ふれなければ、ふれなければ。赤く黄色く青く頭の中で明滅する光、ああ…ふれなければふれなければ。後悔してしまうよという。…ああ、ふれたいのは自分かもしれないと骸は思わず泣きたくなった。
「さわんな、よ…ッ!!」
「綱吉、泣かなくていいですから」
「馬鹿か!!泣いてなんかない!!」
「……ああ、そう」
なでなでと頬を撫でる度になまぬるく滑るのはどうしてでしょうねえと骸がくくっと笑うと綱吉の眦がキッとつりあがり、ボロッと涙も一緒にあふれた。馬鹿が!!と震えた声がもう一度罵声をこぼす。
「銃弾くらい、どうってことはない」
「脇腹!!血がすごいんだよ!!」
「……ああ、そうですねー」
「お、おまえ、結構やばいんじゃあ…」
わなわなと子供みたいに震えた顔。わっと泣き出す一歩手前みたいな顔でくしゃっとなって…、ああ、かわいいなあと骸は思った。自分が歪んだ性癖なのは自覚済だが、まあ、これは常人の趣味の内だろうとわかるのだ。これは誰だってコロリだろうさ。コロリと落ちるさ、今世紀最大のブサイクだが。
「ひとに泣かれるって気持ちがいいんですねえ…」
「お前もう死ね!!!!」
貴方の手でなら勿論本望だ。
































07. 怒っても笑っても泣いても、

その時の綱吉はひどく疲れていた。…特に、仕事が多かったわけじゃないし、ひどい懸案事項を抱えていたわけじゃなかったのにひどく疲れていたのだ。とんでもなく身体はだるく頭の回転も常より一層鈍かった。ちょっと隠れて頭をコンコンと叩いて喝を入れたりもしていたのだが効かない。ボスって疲れるね、なのに休めないなんてひどいよね!綱吉はそんなことをしみじみ思いつついつも通りデスクワークをのろりとこなしていた。勿論、ちょくちょくやってくる獄寺と山本に笑顔を振り撒いて、本当はそんな余裕はない、でも心配をかけたくなかったから笑いふざけて…。トイレにいったときに鏡で確認した顔はほんの少し青白いくらいで、これくらいならなんとかなるだろうと内心でうんうんと頷いていたのだ。絶対だませるって。それにリボーンは黙っていてくれる。黙って早く寝かせてくれるか極力厄介なことを回さないか…、どちらかのことをしてくれるから本当に有難い。言わなくてもいいっていうのは楽だ。あと人払いをちゃんとしてくれるから…。午後になると疲労はピークに達し、もう獄寺は書類を持ってくることもなく、…はあ、と息をつきながら綱吉はそこのところはリボーンに感謝してまったく甘えた。甘えて、つかれて、のろのろと仕事して、騙しだまし平気にふるまって…。
あ。
スコンと抜けていたのだ。ばかだった…。

「え」

誰の声だったろうか。その声でハッとしたから少なくとも綱吉ではなかったのだろう。視界がクリアになった。…いや別に目を瞑っていたわけじゃなかったが…、見ていても見ていなかったという、…ああ、仕事のことで頭がいっぱいで視界が暗く滲んでいたのだろう。
(…あ、)
目の前に六道骸がいた。そうか…、こいつ居たよなあ…。窓からきやがんだもんなあ…。連絡なんかつきやしねえからリボーンだってどうにも出来ないか。綱吉はヘラリとわらった。骸はなんかいっていた気がすると綱吉は記憶を必死に探ったが、ほんのちょっと前のことなのにまったく覚えていなかった。あれ?これはまったくの無意識で対応したのか。綱吉はふいっと骸から視線外して、どうしたもんかと考えてみる…。ふむ、と人差し指の関節を顎にあてて考えてみる。…だって、骸の顔が世にも珍しく目をまんまるにして固まっているのだ。しかも口は半開き。なんか失言したというのは間違いなくて最悪なことに、まったく覚えちゃあいない。失言というものはそうだ、無意識にぽろっと零れるからいけない。ただでさえ綱吉は疲れていて半端なく頭が回らないのだからどうしようもない。言葉って本当取り返しつかない。
(どうすっかなあ…)
骸は面倒くさい。多分、また。人を殺したとか報告したのかもしれないし、ボンゴレの警備を嘆きにきたのかもしれないし、不穏な動きを警告をしにきたのかもしれない。骸のいうことはいつだって有益と無益とグロと暗黒とかが混ざって、そのクセ、時折ふっと肩の力を抜かせた。骸の会話は寓話みたいな面もある、綱吉はぐるぐるとする、そして骸はそんな綱吉をふっと掬い上げることもするから憎めない。(いや、骸のせいでのぐるぐるなんだが…。)皮肉な物言いと嫌味な笑いはちっともひっこまないが、…まあまあ、綱吉は骸のことを認めていたし、お茶をしてもいい相手なのだ。仲は良い。多分。だから変なこと言ったなら速やかに謝った方がいいのだがそんな記憶一切ないときた。謝れない…。
(でも骸が固まるようなことを俺が言えるのかな…?)
相当の隙をついたことになる。覚えていないのは悔しい。無意識万歳。…いやいやいや。綱吉は静かに混乱した。顎につけた手とは反対の方の手の指先でトントンと苛立つように机を叩いていて、それがまた骸を驚かせていた。そんなことも解らない。
「…つ、綱吉?…ぁ、あの、…つな、よし…くん?」
「……………」
無言。聞いたこともない骸の弱気な声をスルーだ。トントンと綱吉のたてる音がシンとした室内に静かに響いた。
(どうすればいい…?)
「僕は、どうすれば…」
綱吉の頭の中でいかに骸を怒らせないようにするか思考は巡り、骸のおろおろとした視線もわからず綱吉は唸る。
どうせロクでもないことを言ったかもしれないのだからこのまま無言でいいのかもしれないと少し思う。あの骸という男は綱吉を反応のいいオモチャだと思っていることなど丸解りだ。綱吉が嘆けば嘆くほど嬉しそうにつつき、呆れて笑えば時々ちょっと拗ねる。怒れば笑う。………………どこのガキだ。いじめっこだ。綱吉は特大の溜息を吐きたくなった。ロクでもない。本当にロクでもないことを嬉々としてやる。解りやすい男。 綱吉が本当にやらないで欲しいことはきちんと守ってやらないでいることぐらいもう綱吉は知っている。
骸は綱吉の関心が欲しい、子供のように欲しがっていることくらいもう解っているのだ。
(……なんでもいいから謝ってみとくか?)
めんどくさい。骸はめんどくさいから、もう、謝ってしまって。怒っても笑っても泣いても、なんでもいいから何か反応してくれたら聞いてなかったことを言おう。よし、と綱吉は決めてそらした目線を骸の方に向けた。



のちに。
泣きながら激怒して…、ついには狂ったような高笑いで骸はボンゴレ本部を半壊させた。
































08. 嫌いじゃない

嫌いじゃないという言葉はそれ即ち好きに繋がるのかといえば…、ああ、そうじゃあないのかあと骸は呆れた溜息と共にほとほと感心した。きらいじゃないから!彼は手を顔の前でぶんぶん振りながら必死に肯定のような否定のようなよくわからないことを叫んでいる。涙目なのに。間抜けめ。…カクッと骸は肩を落とした。もうつつく気にもなれないほどに呆れ返ってしまった。じゃあ、じゃあねえ…。きらいじゃないなら…、そういってコトを進めようとすれば、ひゃっと間抜けな声を出すからそれでそれみたことかーというように言えば途端にまた『キライジャナイカラ!』だ。……いやいや、いやいや?これはもう誰が見たって立派に嫌いってことじゃないのか。骸も長いこと人生のループをやってきてはいるが、こんなにもくだらないループはさすがに耐え難いものでしかない。
「……綱吉。僕は、貴方がとんでもない弱虫だって知ってますから」
「き、きらいじゃないよ!!いや、ほんとだって!!」
「………………」
「ほんとだって!!嫌いじゃなくって…、こう、………に、苦手?」
「じゃあ僕のことは?」
「嫌いじゃないよ」
「好きってことですか?」
「ううん。嫌いじゃないだけ」
嫌いじゃないというのは意地っ張りの言葉だ。…なるほど。
骸の手の中におさまった仔犬がきゃんと泣いただけで綱吉はぶわっと泣きそうな顔になるのに彼は延々延々と…。
































09. どこまでも深く深くふかく、君に狂う

がむしゃらに口吻けを施し続けた。…彼が首を降る。いやがる。けれども顎を掴んで無理矢理唇を重ね合わせ、荒い息の合間に舌も伸ばした。ガチッと歯で噛まれれば彼の頬をはった。両手は抵抗するので頭上でネクタイで縛っておいた。…ただ、唇をあわせていたかった。ただそんな願いをぶつけている。ハッ、ハッ、と獣のような息遣い。ただ唇が吸いたかった。涙にゆれる君が見たかった。奥まで傷つけたかったわけじゃない、ただ表面をなぞるようにして薄皮をひっかくような傷を望んでいた。…ああ、ただ彼の見る瞳を変えたかったのだ。つぅっと背中を背骨にそって指先でなぞり上げた。華奢な造りだ。ほそい。掴む顎も幼く、ちゅぱっと舌を抜いて彼の顔をまじまじと見下ろした。
「ひ、…でぇ…」
涙に塗れた目はギリリと天を突くように鋭く煌いていた。
でも赫い唇はカタカタと。大きく肩で息をする彼の口許はお互いの唾液で濡れている。
骸はハッと短く嗤った。
「君のがひどい。…ああ、これでも足らないくらいだ」
はく、と。下唇を柔らかく食み、…愛撫し、やんわりとついばむような口吻けをゆるゆる繰り返す。
(君も狂えばいい、僕で…)
口吻けを。今はただただ。これは犯せば気が済む問題ではないのだから。だから、ただただ…。
狂ったように。口吻けを。

そうしていつか君にこの屈辱と狂気が返ればと。
































10. ずっと傍に居るよ

時々、心の中で数字を数える自分がいた。秒とは違う速さで、ただただ、単純に数を数えていくのだ。何の意味もない。ただ数字を数えてかぞえて…、空白を埋めるのだ。空白を。黙々と数で埋めていく。どれだけでも埋めていく。空白を埋めるように、あふれてしまう空白を塞き止めるように。溢れていくものの代わりに数字でいっぱいにしていく。数を、数をかぞえなければ…。順々に、一からひとつずつ数えて埋めていかなければ。
『眠れない時は羊の数をかぞえるんだよ』
『ひつじが一匹、ひつじが二匹、ひつじが三匹…』
『狼が食って、あと五匹、あと四匹…』
『なんてな。なんでもいいさ…、俺はお前の子守唄がいいかな?』
『俺は骸の声が好きだよ。なんでかな…、なんで落ち着くのかなあ…』

『お前がやさしいこと、…ほんとうは知ってるから?』

「綱吉……」
目を閉じれば鮮やかに浮かび上がるやわらかく蕩けた笑顔。こどものように無邪気でかなしかった…。彼のおおきな瞳がいけない。いつだって清らかな水に浸された色で光る、まっしろな白目と澄んだ琥珀。生まれたての赤子みたいに瑞々しくて困った。何年たっても変わらないから真剣に困った。…だって、息をするように嘘を吐いてきた唇が彼の目には毒に思えたから…、いいや、彼に自分の姿全部が毒に思えたのだ。困った。…でも彼はいつだって、いつだって…。やさしくて。彼はやさしく笑うから…、わらうから。笑いかけてくれたから骸は…。くっと唇を噛み締めた。
「……そばに、居ようと思ったんです」
さらさらと指先にはなびらの感触。ぽたり、ぽたり。雨が降る。真っ白な花弁がするりと雫をたらした。真っ白な花々に彼は埋もれている。埋もれていて、…ああ、安らかでありあの瞳はぴったりと閉じていて。
「今、僕は泣いています。君が見なくていい醜態です」
数をかぞえる。この空白は尽きない。





























『愛の言の葉十題』 title by "capriccio"
2008/05/06 〜 05/15