『雰囲気的な5つの詞:祈 <pray>』   title by "loca"


01.その姿は祈りに似ている
               骸がけっこう電波。

02.ともすれば零れそうな想いが
               世界が完璧に完結すればそれ以上望むものはない。

03.誰でもない、君の為に
               いじめっこ気質なムクロ★

04.献花の如く、それは
               目を閉じても開いても君がいないなら。

05.祈る言葉なんて持ってないけど
               またあえたらいいね。











2008年06月〜 拍手にて公開。加筆修正を少々。





























































01.その姿は祈りに似ている

「百合の姿のようですね」
「…は?」
ぱさ、となにかの羽音よりも静か過ぎた声で、…ああ、白い羽根が地面に舞い降りるよりも密かで柔らかな音のかもしれない。綱吉は、なんとなくですよと続けて呟いた言葉をぼんやりと聞いた。淡い夕陽にぬるりと濡れた骸の目は遠くを眺めていて何に思いを馳せまたは何を思い出して何事をそんな白く清らかな花に例えたのか、綱吉にはまるで解らなかった。唐突なのはいつものことだが。しかしいいものじゃない。…遠いね。ぽっかりと浮かぶ気持ちをどうすればいいのか解らずとっさに綱吉はぱっと一歩だけ隣でぶらぶらと歩く骸より先に前に踏み出た。わからないよ骸。骸の肩あたりから妙なこわばったような…けれども粘着な空気が流れ出そうしている。どうして、お前は。わからない。途方に暮れそうになって綱吉はぶらりと空を見上げた。
(空気が、…なんかアレだからかな)
昨日の夜に雨が降ったせいか道は濡れていて、アスファルトの色がいつもより濃く翳っている。空はまだうっすらと曇る、首元にするっと濡れた空気が通り過ぎた。
こういう日は髪の毛に艶が出るというが。まっすぐな骸の髪を見れば、ああ、湿気が多いんだなあと実感した、だって自分の跳ねた髪じゃあわからんよ。綱吉はまた一歩前へと踏み出した。更に距離が開く。相変わらず骸はぶらぶらと歩いている。制服の前をだらりと開いているから、なんとなくシャツのすそがひらひらしてるような印象がする。あんまりじっくり見てるわけじゃないからそれはただのパッとした印象だ。まあ服装に関しては綱吉もひとのことを言えたものじゃあないが、そんな、あんな…、骸みたいにチャラチャラしてるわけじゃあないからまだいいのかもしれない。
「さっき、カマキリ見ました」
パシッと水溜りを踏んだ瞬間だった。そんなに深いわけじゃなく、うっすらへこんだところにたまったようなもので、別に綱吉のズボンの裾は濡れなかったが、…カマキリを見たというセリフになにかをしてやられた気がした。タイミングがいい!その妙ちきりんなセリフのせいで、なんか、思わず綱吉は足をとめてしまったのだから。そして何でか。ぴたっと骸も足を止めている。
「……そのカマキリが百合みたいだった?」
「まあ、そんな感じで。適当に」
「適当で百合かよ…」
カマキリって、緑のあれだろ〜と。カクっと肩を落として、ふらっと綱吉は後ろを振り返った。骸は素直にこくっと頷いて、そして…、あげた顔を僅かに横へかしげた。いやいや、かしげたいのコッチだよ。綱吉は内心でビシッとつっこんだ。
「百合だ」
「…………」
また遠くを見つめる目。ゆらゆらと青と赤が宙を浮遊し……、ああ、これ、電波受信してね?と誰に聞いたってコクリと頷かれそうな、怪しいひと=骸になって、…こまったなあこまったなあと綱吉は泣きたいような縋りたいような心底嘆きたいようなゾッとしてしまうわたしの知らない世界を覗き込んだ…等々複雑な気持ちで特大の溜息を吐いた。まるでトランス状態?…綱吉はすっと足をあげて、後ろに踏み出した。よろよろとゆっくり後ろ歩きをして、やっとこさ骸の隣にたった。なんだかすごい疲れた気がして、どばっとまた溜息が漏れてしまう。
「カマキリが百合に見えてもいいから…、さっさと戻ってこいよー…、帰りたいよ俺!」
「…………………は、ぁ」
「はあ、じゃない」
「なんとなくわかりました」
「そうか、よかったな」
目の前はうすい曇り空。…いいや、まるで湖のような濡れた色の空。骸はその空をピンとした背で眺めた。さっきはよりは意思のある目をして、懐かしむような色をたっぷりぬって目を細めた。にがい。…ああ、肩からまた強張った気配が漂った。綱吉も思わず背をのばして空を見上げた。ゆらゆら揺れる水面を演出するような空。そして空と一体化したような水色の雲たちはさざ波のようで。ぬらぬらとぬるい色に染まり、夕陽をその向こうに隠しているのだろう。ほのあたたかい色の空。いいや、湖面?…なにもない空だ。なにもないよ太陽も雲も、空も。こんななんにもない空に一体骸はなにを見るというのか…。この湿度の高い空気よりも余程にこの男の方がじめじめとしている。骸。おまえのがきっと女々しい。
「……百合は、その横顔がなんとなく深く頭を垂れて祈る姿に似てるんです」
「へえ」
教会でそんな姿でも見たのかなと安直に綱吉は考えた。通りにあった。骸が一歩踏み出した。遅れて綱吉も続いた。意識を取り戻した骸はすらすらと言葉を発し、いつもの通りにピンとなった。懐かしむ色はなく、それが声音に沈むこともなく、淡々と呟く。事実を述べるだけのようにすらりと文章を読む。
「カマキリってね、あるところでは拝み虫っていうんですよ、知ってましたか?」
「知らないよ」
「まるで拝んでる姿に見えるから、拝み虫。その拝む両手は鎌なのに、なんという皮肉だか…」
「ふーん…」
「まるで君みたい」
「あっそ…」
ツキン、と。胸が少し痛んだけれど綱吉はあえて無視をした。直視したくない。拝み虫。ザッと乱暴に足をすりあげて速足にすすむと骸なんかあっという間に追い越せた。…だって綱吉はもう。
チッと思いの外大きく響いてしまった舌打ち。綱吉の両手はいつの間にか拳になりぎゅっと強く握りこまれ、肩が微かにふるえた。ちがいないよ、でも。この拳が武器だと綱吉は十分にわかっている。だが。だが…。
(わかってない…)
バッと空を仰ぐ綱吉。ぐにゃりと瞳をゆがませて強く笑う。
「神は、いない…。いるのならお前はもうすでに生きていない」
いない。心の中でも強く綱吉は唱えた。綱吉が自棄のように言った言葉に骸は眩しそうに目を細めた。そして、くっと喉奥であたたかく笑った。それでも。ああ。それでもね。骸は綱吉の空を見上げた後頭部を見つめながら、君は祈ることをやめないひとですよ、と。
「そして僕を生かすのは君だ」
骸は微笑むように紡いだ。
「君だ…」
神は信仰の中にこそ在る。君がもぎとってくれた許しがすべて。
証。
































02.ともすれば零れそうな想いが

「君がいればいい」
せっぱつまったように骸はさっと言葉をはなった。ぎゅうっと思いっきり力を込めて綱吉の腕を掴み、まっすぐにその目を見つめて真剣に言った。
言葉を失う。
こんな骸を綱吉は知らない。こんなことをいってしまう骸の気が知れない。真剣な目。今更言われても困るだけだ。混乱したぐるぐるとまわる目で綱吉は、…はっ、はっ、はっ、と息を荒くして、待ってくれ!!ともう一方の手でジェスチャーして伝えた。するとぐしゃっと盛大に苦虫を噛み潰した顔で骸はバッと手をのばして綱吉のうなじにしゅるっと這い、間をおかずすぐさまドンと綱吉の額を自分の肩へとしたたかにぶちつけた。ガツっと音が聞こえそうなほどに性急でまるで宝物を盗られまいと必死に腕の中に閉じ込める子供みたいではないか。ぎゅうぎゅう抱え込まれてしまったのだ。ガツンとぶつけられた額はじんじん痛んだがそれよりも当惑が色濃く腹の底が冷えて何かがゴロゴロと重く転がるようだ。骸は必死で綱吉に巻きついた。うなじを這った手は後頭部をがっちり抱え込みキシキシ音がしそうなほどに力強い。その頭部にまた骸の頬がべったり寄せられているのだ。…どんどん綱吉の混乱は深まっていく。骸が息をする。苛立たしげに。心臓の音が聞こえた。焦ったように悲しむように。拘束は強く、必死で、綱吉の背を這い腰をぐるりと捕らわれた。嘆くように、骸のあの鋭角気味なあの顎が、ゴリ、と音がするほどにくっつけられている。綱吉は骸の身体ぜんぶでがんじがらめになっている。間違いなく綱吉は世界で一番大事な骸の宝物だった。
「君がいればいい。君さえあれば世界は完結する」
だから行くなという。
固く研ぎ澄まされた声。よわよわしく震えた泣きそうな声のようだ。綱吉は首を振ることさえ叶わない拘束の中、シン、と冷静になっていく。ともすれば冷酷のように。ふわっと口許でわらう。
綱吉は行かなければならなかった。世界はどうしたってひろかったのだから。
(どうして…、俺は、今…、あの時に殺されてやればよかったと思うのかなあ?)
そろりと、胸の奥から猛然と沸き上がる激情を押さえ込むように震えた手をぎゅっと耐えるように握り締める。
助けたいと思う。純粋で複雑な願いだった。この男の命も。これは傲慢だ。しかし…。ああだからなんだ。なんだ。なんだというのだ。もう…。甘やかさない。
「……骸、十年後の俺を助けてやって。その言葉が本当ならね?」
まったくなんて遠くまできたもんだ。やれやれと身体の力を抜く綱吉に骸は身を震わせた。
…ああ、そういえばこの男の本当の肉体とは恋情のない日々でしか出会わなかったのだった。そのことが妙に可笑しくて、綱吉はわらってしまった。
「おまえはあたたかいね」
ともすれば泣きそうになる顔をゆがめて。
































03.誰でもない、君の為に

彼にいえない言葉はたくさんあるが、これだけは決して言ってはいけないものがあった。
骸はかつかつと靴音を高く響かせて歩きながら、今回の綱吉への報告について考えていた。冷めた眼差しはつやつやして 尖った鼻先は白くつんとやや上向いている。ピンと伸びた背中は定規でも入ってるのかと思うほどまっすぐだ。目線はやや上。さらさら横髪が頬の横で細くゆれる、長く伸ばした艶めく後ろ髪は歩く度にすらすらと背中で緩やかに踊った。…ひとつ溜息。骸の片手にはすべてを記した報告書がある。それを無言でただ渡せばいいのだが、けれども何か一言二言くらいしゃべりたいと思うのだ骸は。目線の先の天井の文様は段々凝ったものになっていく。セキュリティがぶ厚くなっていく。段々と綱吉の部屋に近づいているのだ。…ああ、どうしたらと骸はぼんやり思う。泣かせたい、泣かせたいなと…。
「あー…、」
いつものことだ。
骸の目はぽっかりとぼんやりとしながらもその奥はドロリと毒蛇が渦巻き時折ギラリと苛烈な色で瞬いた。 骸はいつだって嗜虐に満ちている。愛する者なら尚更に。自分独りのものにならないなら更に念入りに。
痛めつけたいのだ。そして許されることで自分への愛の深さを計りたいとも思う。
いやいや。ただ痛めつけたい。泣き叫ぶ姿をみたい。自分に許しを請う姿も見たい…。
「欲求不満ですか僕は」
はあ、と軽い溜息ひとつ。もうすぐ綱吉の執務室。邪念をすぐ見抜くのだ彼は。
消してしまわないと。消して、仕事に集中して…。
「君の為にひとを殺しましたといわないように。あくまで『ボンゴレ』の為にと、ね」
やさしい君を愛しています。扉の前のぽつりと骸は呟いたが、その目も口許も蛇のような怨念がこもっている。そのやさしさゆえに彼は永遠に骸の為に生きないのだから。
くつりと笑う。骸はすっと腕をあげてノックをする。きみは。
やさしいけれど駄目なひとだ。

「はいって、骸」

愛を呟く度に嗜虐は増していく。君は一体どこまで知らない振りをするのだろうか?










































04.献花の如く、それは






















「君に捧げますよ、世界の破滅を」

























































05.祈る言葉なんて持ってないけど


「君は死なないでくださいね?」
「いやいや、それは無理だろ?俺はお前より先に死ぬんじゃね?」
「じゃあ死んだら化けて出てきてくださいね?」
「ん。殺されそうだからいやだな!」
「じゃあどうします?」
「どうもしないよ…」
「ガッツをみせなさい!!沢田綱吉!!」
「ええ〜〜〜〜〜!!」
「死ぬことを考えないで前向きに生きるとか宣言しなさい!」
「……あ。それを言わせたかったのか」
「……………………」
「生きるよー、超いきるよーー??」
「腹立ちますね」
「ははは。出来ない約束はしない性質だから、まあ宣言なら…、うん、するよ」
「……ねえ。綱吉くん」
「?」
「君が死んでも僕は君を愛しますから、それは忘れないで息を引き取ってください」
「……………ああ、そう」
「苦しんで死ぬといい。貴様なんか」
「苦しまずに俺が死ぬと思うのはまた、…夢見がちだね骸は」
「……苦しめ、」
「俺が最後に何を考えていたのか、あとで聞きにおいで」